過剰処方?クスリを出す医者はいい医者か 薬を出されて安心していませんか?

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精神系の薬の処方のあり方は、働き盛りの世代も無縁ではない。2000年前後から製薬会社などが「うつは心の風邪」という啓発キャンペーンを繰り広げた結果、「心療内科などを受診するハードルが下がった」(日本医科大学特任教授の海原純子医師)のだ。ここ2、3年は、とくに外来受診する会社員が多いという。

それにしても、どうして患者を苦しめるほどの多剤処方が起きるのか。「吉井クリニック」(大阪府吹田市)の吉井友季子院長は、こう説明する。

「多剤処方された患者さんの薬の内容をみると、診察のたびに違う症状を訴えた結果、種類が増えたようです」

「こころと身体の痛み」の治療を専門とする「カワバタクリニック」(同)の川端一永院長の見方も同じだ。

「(原因不明の体調不良を訴える)不定愁訴が増えています。明確な症状ではないグレーな症状だけに、医師によって診断がばらつくのです」

そもそも医師たちは医学部で「教科書にない『さじ加減』こそ重要」と教えられ、かなりの裁量が認められてきたことが背景にある──という医療関係者もいる。

最新科学に基づく医療

多剤処方すると、薬の「飲み合わせ」の問題が生じる。薬の開発においても、それは考慮される点だが、製薬関係者によると、臨床試験(治験)で3種類以上の飲み合わせを調べた薬は、ほとんどないのが実情という。

院外処方が進み、病院が薬価差益で稼ぐ時代は過去のものになった。稼ぐには、「初診や再診の数をこなして診療報酬を増やすしかない」(開業医)

処方量も大人向けと子ども向けは分かれているが、50代と80代でどのように量を変えればいいのか、明確な基準がない。体内で薬を代謝・排泄する能力は、高齢になるほど落ちる。同じ年齢でも老化の状態は人によって異なる。過剰な処方は患者にとって害になるが、錠剤だと量の細やかな調整は難しい。

多剤処方や過剰処方は、「お薬手帳」で防ぐことができそうだが、これも効果は薄いようだ。院内処方を続ける「五本木クリニック」(東京都目黒区)の桑満おさむ院長は言う。

「意義が理解されていません。薬歴管理もせずにシールを発行し、保険点数稼ぎをする薬局もあります。健康保険証カードに薬歴情報を出入力できる仕組みにすれば効果的なのですが……」

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