ロシア軍・ヘルソン市撤退で動揺不可避のプーチン 米欧はウクライナへの越冬支援強化に動く

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しかしウクライナの軍事筋によると、最近、ウクライナ軍は同州東部でドニエプル川を渡河してひそかに南下し、南部からも市を包囲する作戦を開始していた。この作戦が完了すれば、ヘルソン市は東西南北から完全な包囲状態になる。この動きにロシア軍が気付き、慌てて撤退発表に至った。

ロシア軍の侵攻状況(写真・共同イメージリンク)

一方で、今回の撤退決定は、わざわざロシア国営テレビが決定場面を放送するという異例の形となった。この背後では、クレムリンのいくつかの苦しい狙いが見え隠れする。

一つは、撤退がクレムリンではなくロシア軍部の失敗であることを強調し、プーチン氏に批判の矛先が向かないようにするための世論工作だ。侵攻作戦を統括するスロビキン司令官がショイグ国防相に撤退を提案。国防相が賛成を表明するシーンを演出したのも、このためだろう。

もう一つの狙いは、ロシア軍が将兵の生命を大事にしているとの姿勢をロシア国民に向けにアピールする狙いだ。この背景には、2022年11月に入ってロシア軍兵士の戦死者が大幅に増加していることがある。

ロシア動員兵をめぐる悲惨な話

ロシアの独立系メディアなどの報道によると11月1日、東部ルガンスクで9月の部分動員令で招集された動員兵で構成された大隊がウクライナ軍の集中砲火でほぼ全滅し、約570人が戦死した。この部隊はスコップ3本しか与えられないまま、手で塹壕を掘らされていたという。

動員兵をめぐる悲惨な話はウクライナ軍も発表している。それによると、ロシア軍はウクライナ軍の火砲の位置を調べる目的で、銃を持たせないままで動員兵を囮として最前線に飛び出させているという。このため、怒った動員兵の間で反乱が起きて、上官を射殺する事態も起きているようだ。軍服や銃など満足な装備も与えられないことに怒った動員兵たちの集団投降や、プーチン氏への批判もSNSで流れている。

現時点で、こうした状況に対する国民の不満が社会に広く拡散するという事態にはまだ至っていない。しかし、この状況が続けば、政権批判の高まりにつながる可能性はある。クレムリンとしては、不満のマグマが大規模な反戦運動として噴出する事態を未然に防がなければ、という危機感があるとみられる。

プーチン氏は2022年11月3日、動員兵に日本円で約45万円の一時金を支払うと発表したが、これもこうした危機感の表れだろう。

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