広がる"ごぼう抜き"抜擢人事の「功罪」 選ばれる人、選ばれない人の資質

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また重厚長大な大企業では年功序列を「それなり」に重視する古典的な人事制度が残っているため、抜擢人事が「いまだに」斬新にみえるのかもしれません。それなり……と書いたのは、重厚長大な大企業でも成果に応じて年功が逆転した人事は増えています。

ただ、抜擢と声を大にして呼べるくらいに大胆な人事には至らないのが現状。一定の役職に上がるための年齢的な条件や、執行役員から取締役になるためには数年間の経験を経る必要があるなど時間的に制約があるのが通常です。

ところが、話題になるくらいの抜擢人事は三井物産だけでなく、ホンダや富士通などでも続々と出てきました。ついには日清食品で37歳の専務が社長に抜擢される人事が発表されました。おそらく今後、こうした驚きの社長の抜擢人事は増えるのではないでしょうか。

その理由は? 社長に求められる資質に「変化」と「バイタリティー(活力)」の高さが求められる世の中になってきたから、と筆者は考えます。国際競争や事業環境の変化が激しい時代になり、若さや新しい発想を求めて、長らく経営のトップに近くで経営にかかわる人物より「しがらみがない」人物が適当、と判断して現社長が後継者に選ぶのかもしれません。

広告代理店でも30代前半社員を抜擢

さて、こうした抜擢人事は社長だけでなく、社内の幹部人材でも増えているようです。取材した広告代理店では、

「ネット上のマーケティング手法がわからない幹部には、次世代は任せられない」

と社長が判断して、50代の部長たちをごぼう抜きにして30代前半の事業部長を営業部門のトップにする抜擢人事がなされていました。広告業界に長く伝わる接待型・情に訴える型の営業では、ネット時代には仕事が取れません。単なる訪問者から会員や(見込み)顧客へと転換する(=コンバージョン)数を高める施策を示せないと、クライアントは離れていきます。業績を将来的にも上げていくためには、抜擢人事は必須の判断であったのかもしれません。

ある調剤薬局チェーンでは、20代で店長への抜擢が行われていました。店舗にはベテランクラスの正社員がたくさんいます。それでも抜擢した理由を人事部に尋ねてみると

「若手アルバイトのマネジメントができることが店長に求められる能力ですが、その能力を備えている人材が20代にいたので抜擢したまでです」

と回答が返ってきました。逆説的にベテランクラスで若手アルバイトのマネジメントが出来ない人がいる……と言いたいのかもしれませんが、こうした職場での追い抜き、年功上の逆転現象が増えるとどうなるのでしょうか?

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