ブラザー、英社買収1890億円は適正価格か 産業用印刷機メーカーに巨費を投じる狙い

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2012年に小型減速機・歯車メーカー、ニッセイを買収した時に投じた額が110億円だったことを考えると、まさにケタ違い。ドミノ社の純資産は約388億円で、買収額(約1890億円)との差額=約1500億円が「のれん」となり、ブラザーの今後の業績に重くのしかかる。

同業のキヤノンが1カ月前に監視カメラ世界最大手の買収を発表した際も、売上高770億円の企業に約3300億円をつぎ込むことが株式市場で話題となった。絶対額で下回るとはいえ、高い買い物ではないかという懸念がぬぐえないのは同様だ。

会社側は「成長投資」と強調

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ブラザーは今や、印刷機器を主力とするグローバル企業だ(写真は2011年の欧州工作機械見本市での同社ブース)

ブラザー側も高額な買収であることを認める。そのうえで、「産業用印刷は非常に有望な市場であり、進出を模索していた。大きな成長性を持ったドミノ社をグループにすることができる」と、成長投資としての有効性を強調する。

今2015年3月期は、海外市場でのプリンターや関連消耗品販売の好調、スマートフォンや自動車部品向け工作機械の急成長、円安の後押しなどにより、売上高7100億円(前期比15.1%増)、営業利益550億円(同27.0%増)と過去最高の業績になる見通し。中期計画目標の売上高7500億円、営業利益580億円も射程に入っている。

ただ、連結売上高の3分の2を占める事務機・電子文具事業は、国内や欧米を中心に頭打ち感が出ており、これを補うために新興国での販売を強化している状況だ。それだけにドミノ社の買収は大きな戦力の追加になる。

ブラザーの印刷機器は、事業所や家庭向けのプリンター複合機が主体で、産業用への展開は一部にとどまっているが、ドミノ社買収によって成長分野で一気に事業を拡大できる。また、インクジェットをはじめとするブラザーの印刷技術を、ドミノ社の製品群に活用していくことも可能だ。

かつてのブラザーといえば、日本の大半の家庭にあったミシンが代名詞だったが、現在はプリンターが主力製品となり、売上高に占める海外の割合は8割まで拡大している。そうした点で、世界規模で産業用印刷事業を手掛けるドミノ社を手中に収める意味は小さくない。

現状では重複する分野のほとんどない両社がこの先、どこまでシナジーを創出できるか。巨額買収の成否はその一点に懸かっている。

鶴見 昌憲 東洋経済 記者

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つるみ まさのり / Masanori Tsurumi

紙パルプ、印刷会社等を担当

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