人的資本経営がよくわからない人に伝えたい本質 企業の存在意義に沿った学び直しが求められる訳

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ですが、多くの日本企業はまだ、人的資本の情報開示の二の足を踏んでいる状況です。「人的資本可視化指針」を踏まえてもなお、企業が具体的に何をするべきか定かではありません。

エッグフォワードの「人的資本開示に関する上場企業の実態調査」も、人的資本開示の取り組みにおける課題として「具体的な進め方がわからない」「社内データの集め方がわからない」「手探り状態で正解がわからない」などの回答が多数を占めることを明らかにしています。

この状況は、きわめて日本的なものとして私の目に映ります。日本式経営とアメリカ式経営の違いとして、しばしば指摘される点をまとめたのが以下の図です。

日米の重要な違い

私は日米欧の金融機関に勤務するキャリアのなかで、このような違いを肌で感じました。例えば、人的資本経営の指針のみならず、何をするにも日本が「総花的」で要領を得ないのに対し、アメリカは「選択と集中」を徹底します。ヒト・モノ・カネが100あるとき、日本はそれを100項目にも分散しかねないところ、アメリカなら5項目に絞り込む。リターンの大きさに差が出るのは当然です。

「弱みを正す」日本、「強みを生かす」アメリカ

あるいは「弱みを正す」日本に対し、「強みを生かす」のがアメリカです。日本では人も組織も弱みを潰し、平均値を底上げすることに躍起になる傾向があります。これに対し、アメリカは「強みを生かす」ことで尖った競争優位をつくろうとします。

また「〇〇を策定する」ことで満足する日本に対し、「〇〇を実行する」ところまで責任を持つのがアメリカです。日本においては、〇〇庁を作る、〇〇プロジェクトチームをつくるなど、何かを策定するところまでは一生懸命ですが、その後が続きません。アメリカであれば、具体的に何をするのかを示し、実行に移すまでは決して評価されません。

人的資本経営にしても、日本においてはまだ、なんのための人的資本経営であり、なんのための情報開示であるのか、十分に示されてはいないように思います。それどころか、支持率が低迷している岸田政権が「賃金上昇のために」という大義名分を持ち出して支持率を回復しようとしているのではないか、と邪推したくなるほどです。

日本には『失敗の本質』という戦略論の名著があります。同書では日本軍の失敗の8大要因が語られるのですが、その筆頭に挙げられているのが「あいまいな戦略目的」です。海外における戦略論の名著『リデルハート戦略論 間接的アプローチ8か条』でも筆頭は「目的と手段を適合させよ」、次いで「常に目的を銘記せよ」とあります。残念ながら、現時点における日本の人的資本経営は、ヘタをすると最初から目的がないものとして、批判を免れないでしょう。

次ページ世界標準の人的資本経営の姿をさぐる
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