紙おむつ“影の主役” 日本触媒SAPとDNA《上》

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が、本を正せば、BASFも日本触媒との合弁会社でSAPを作り始めた。後に、欧米2社のSAP企業を買収し、合弁を解消。ところが買収先との技術統合に苦しみ、一時、生産がストップした。日本触媒にすれば、シェア奪回の絶好のチャンスだ。が、日本触媒は“裏切った”相手にSAPを融通したのである。BASFも助かったが、P&Gはこの1件で日本触媒への信頼感をいっそう厚くしたと言われている。

「1社依存はどちらにもリスク、という認識がお互いにある。だいいち、BASFはケンカして勝てる相手じゃないし」(近藤社長)。BASFとは現在、アクリル酸の玉融通などを通し友好的な関係にある。

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そのアクリル酸。SAPと並び、日本触媒の今回のV字回復の立役者となった。そもそも、世界で初めてプロピレンを直接酸化してアクリル酸を作る技術を開発したのは、日本触媒だ。現在の生産量は世界3位。

SAP原料として自家消費する一方、3分の1を外販しているが、昨年初来、そのアクリル酸の価格が「SAPにするよりアクリル酸のまま売ったほうが儲かる」という冗談が飛び出すほど、急騰したのだ。

アルコールと反応させて作るアクリル酸エステルの市況は09年1~3月が1トン=1050ドル。10年7~9月に2400ドルにハネ上がり、足元2900ドルに張り付いている。SAPの成長でただでさえアクリル酸が足りない。加えて、アクリル酸エステルを原料とする塗料・接着剤の新興国需要の沸騰が、背景にある。

急騰の理由がもう一つ。BASF、ダウ・ケミカル、そしてアルケマ。一昨年来、アクリル酸の世界大手の工場で軒並み操業トラブルが発生し、供給力がガタガタになってしまったのだ。

各社とも事故原因を明らかにしていないが、アクリル酸は重合しやすく、取り扱いを誤れば、重合反応が暴走する。需要増に応じるために無理な操業を強行し、制御限界を超えてしまったとみられている。

唯一、日本触媒の姫路製造所が事故に無縁だった。増産投資という余計な負荷がかかっていたのに、なぜ、姫路だけが“無事”だったのか。《下》に続く

◆日本触媒の業績予想、会社概要はこちら

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(撮影:鈴木紳平 =週刊東洋経済2011年3月19日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

 

梅沢 正邦 経済ジャーナリスト

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うめざわ まさくに / Masakuni Umezawa

1949年生まれ。1971年東京大学経済学部卒業。東洋経済新報社に入社し、編集局記者として流通業、プラント・造船・航空機、通信・エレクトロニクス、商社などを担当。『金融ビジネス』編集長、『週刊東洋経済』副編集長を経て、2001年論説委員長。2009年退社し現在に至る。著書に『カリスマたちは上機嫌――日本を変える13人の起業家』(東洋経済新報社、2001年)、『失敗するから人生だ。』(東洋経済新報社、2013年)。

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