大絶賛!野田氏「追悼演説」は"泥仕合"の分岐点? 国会は「国葬」と「旧統一教会」問題で対立

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安倍、野田両氏には、ほかの首相経験者以上のさまざまな因縁がある。安倍氏は、54歳で宰相の座を射止めた田中角栄元首相の戦後最年少記録を更新して52歳で政権を担った。その一方で、野田氏も安倍氏の再登板に先立ち、田中氏と同じ54歳で首相となっている。

もちろん首相在任日数では、最長記録保持者・安倍氏が3188日、野田氏が482日とまったく比較にならない。しかし「若くしてトップリーダーとなった重圧の共有」が追悼演説に深みを与えたのは間違いない。

演説の約1週間前の10月17日、野田氏は自身のブログに「安倍氏への追悼演説の人選が迷走し、私の名前が浮かんだり消えたりしてずっと困惑していました。長期政権が誕生するきっかけとなった因縁があるうえに、その最期にも立ち会う運命になるとは……。安倍氏にスポットライトを当てるための政治人生です。『かませ犬』みたいです」とつづり、永田町に波紋を広げた。それまでの政治的な紆余曲折に、野田氏はあえて「かませ犬」と自嘲したと受け止められたからだ。

しかし、25日の衆院本会議での野田氏の立ち居振る舞いは「『かませ犬』どころか、満場をうならす主役そのもの」(首相経験者)にみえた。野田氏は25日夜の民放テレビ番組に生出演し、「プレッシャーは感じていました」と演説直前の心境を吐露する一方、「議場の反応はとてもうれしかった」と安堵の表情で語った。

岸田首相は山際氏辞任で謝罪と釈明に追われる

国会の慣例もあり、野田氏の演説はNHKや民放各局も抜粋だけで生中継はしなかった。このため、関心を持つ人々はネット中継で視聴したとみられるが、SNS上では「ダメだ。涙でました」「言葉に魂が入っていた。想いがあふれていた」「すごくすごくよかった。テレビ中継してほしかった」との感動の書き込みが相次いだ。

さらに「先にこっちの追悼演説やっとけばここまで国葬、割れなくて済んだのでは……」との感想が「今回の追悼演説の政治的価値を物語った」(自民長老)との声が少なくない。

演説前日の24日夜には、旧統一教会問題で山際大志郎氏が経済再生相を辞任(実態は更迭)。これを受け、野田氏の演説後は岸田首相が本会議での謝罪と釈明に追われた。それだけに、「議場を1つにした今回の野田演説が、国難そっちのけで対立と混乱を極める現在の与野党攻防を変える分岐点となれば」(同)との期待も広がるが、はたしてその結末は……。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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