タクシー減車に着手、何のための規制か 強制的に台数を減らす候補地が決まった

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東京では、多くの運転手が午前中から翌朝の明け方まで働く、過酷な勤務をしている(撮影:引地 信彦)

タクシーの減車に向けた規制強化がいよいよ動き出した。1月下旬、国土交通省から地方運輸局へ、減車の対象候補となった特定の29地域が通知された。特定地域の指定基準は、「事故か法令違反の件数が全国平均を上回る」など、6条件をすべて満たすというもの。大都市では、東京23区、名古屋市は対象から外れたが、大阪市、福岡市は含まれた。

ただ、正式な決定には、候補に挙げられた各地域で、自治体やタクシー事業者などから構成される協議会の同意を得る必要がある。「早ければ5月以降に指定を始める」(国交省)という見通しだが、どの程度の台数を削減するかといった計画は、各協議会の裁量に任される。一方、減車計画に応じないタクシー事業者には、国交省が一定期間の営業停止などを命じることができる。

今回の動きは、2014年1月に施行された改正タクシー特別措置法の具体的な措置だ。2002年に国は、新規参入の際の最低保持台数を低減するなど、規制を緩和。その結果、輸送人員が右肩下がりで減少する中、2002年から2007年にかけて車両数は26.3万台から27.3万台へと増加した(図)。そこで、国は規制強化へと方針を転換。2009年にタクシー特別措置法を施行し、業界に自主的な減車を求めた。しかし、輸送人員の減少がその後も続いたことで、今回の「改正」では国に強制力を持たせた。

東京は減車候補地に該当せず

東京ハイヤー・タクシー協会の藤崎幸郎専務理事は「自分の会社だけは大きくしたいというのが事業者の本音。しかし、減車に取り組まなければ共倒れになる」と、危機感を募らせる。ただ、規制に懐疑的な事業者もある。東京エムケイの小林正明副社長は、「今後は増加する訪日外国人や高齢者の送迎など、新たな市場を創造できる可能性がある。民間の裁量余地を残してほしい」と訴える。

一方、『潜入ルポ東京タクシー運転手』の著作があり、取材のため実際に東京で約3年間タクシー運転手を経験したノンフィクション作家の矢貫隆氏は、「安全」の視点から減車の必要性を指摘する。

矢貫氏が問題視するのは、タクシー事故の多さだ。2013年に東京でタクシーが起こした人身事故は4157件と、バブル期の1989年の3151件から増加した。全自動車の事故数に占める割合は9.9%と、こちらも1989年の5.8%から上昇している(警視庁調べ)。

「ほかのタクシーに客を奪われまいと、無理な割り込みもしばしばある」と、矢貫氏は事故が起きやすい背景を考察。「減車は安全対策の第一歩」という見方だ。

規制緩和で競争を促せば、料金の低下は見込める。一方で、利用客にとっては安全も重要だ。タクシー事故が多い東京の場合、特定地域の指定基準として定められた六つの条件のうち、「実働実車率が2001年と比べて10%以上減少」に当てはまらなかったため、今回、規制地域の候補から外れた。いったい何のための規制なのか、タクシー政策の本筋が見えてこない。

「週刊東洋経済」2015年3月14日号<9日発売>「核心リポート04」を転載)

藤尾 明彦 東洋経済 記者

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ふじお あきひこ / Akihiko Fujio

『週刊東洋経済』、『会社四季報オンライン』、『会社四季報』等の編集を経て、現在『東洋経済オンライン』編集部。健康オタクでランニングが趣味。心身統一合気道初段。

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