ピケティ、大御所2人と「格差」を語る スティグリッツ、クルーグマンとの一致点

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ジョゼフ・スティグリッツ
米国の経済学者、コロンビア大学教授。1943年生まれ。マサチューセッツ工科大学で経済学のPh.D.。1979年にジョン・ベーツ・クラーク賞、2001年にノーベル経済学賞を受賞。大統領諮問委委員会メンバー、世界銀行上級副総裁などの公職も歴任

ピケティ:一方で、米国のような圧倒的な格差は経済成長、社会福祉などの観点からも許容されるべきものではなく、こうした議論を言い訳として用いるべきではない。北欧諸国のように、ほどほどの格差で、国民全体として豊かで、幸福度が高い国々もある。

スティグリッツ:格差の大きい国々における最下層の人々は非常にみじめだ。そうした極端な格差は社会にとって非常にダメージが大きい。

クルーグマン:米国における圧倒的な貧困、これは大きな問題だ。もうひとつ深刻なのは、ネズミレースに放り込まれたような若者層の心理状態だ。軍隊に入隊したものの、3人に1人しか残れない、といったようなもので、(中産階級のない)圧倒的な格差社会の中で、もし上流階級に入っていけなければ、医療保険もなければ、人間と してまっとうな生活をおくれない、といった状況になってしまっているのだ。

スティグリッツ:まるで梯子の隙間が大きくて、踏み外したら、奈落の底に落ちてしまうようなものだ。驚くべきことに、米国での平均寿命は同様の所得の国と比べて低い。これは医療保険の問題ということも一因だが、それだけではなく、ストレス社会だということもあるだろう。

――今後、明るい兆しはあるのか。

ピケティ:私は(将来について)あまり悲観をしていない。歴史を長期的視点で見た時、たとえばヨーロッパは100年前に比べて、もっと豊かで、格差のない社会になっている。100年前のヨーロッパは米国よりよほど格差があったが、今は米国のほうがヨーロッパよりよほど格差がある。このように社会は変化していくものだし、発展途上国においても、非常にポジティブなトレンドが出てきている。

南米では格差是正の政策で大きな進歩が見られる

市場原理だけにすべてを任せるのではなく、多くの人々に恩恵をもたらすような政策を導入することで、グローバリゼーションは世界の貧困を軽減していくものと信じている。たとえば、ブラジルでは過去15年で、最低賃金の引き上げや教育への投資によって、格差の是正と経済成長を実現した。われわれの仕事は、「今後、事態は悪化する、とか、格差は拡大する」と言うだけのものではないし、妥当な政策を導入することで、展望は明るいものになるだろう。

スティグリッツ:確かに、南米のいくつかの国々では、格差の縮小がみられている。それは、格差を是正する政策がとられていることによるもので、政策的な意思があれば、大きな進歩がみられるということを示している。グローバルで見た時、たとえば中国では、(13億の人口のうち)5億人が貧困から脱したように、多くの人々が顕著な所得の増加を享受している。ただ、米国にはこうした事態は起こっていない。というものの、格差問題は、今日この場のトピックスになっているように、米国においても、(富裕層擁護派の)共和党の議員が話題として取り上げるほどにまでになってきた。

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