和歌山電鉄から学ぶ「ローカル鉄道」再生の秘訣 両備ホールディングス小嶋会長インタビュー

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――乗ることを目的とした観光列車が地域社会に効果をもたらすために必要なことは何でしょうか。

観光誘発につながる地域運動になっていることがポイントになる。鉄道というのは本来、地域の人たちが移動するために存在するため、地域社会に効果をもたらす取り組みができていなければならない。

小嶋氏(右)と筆者(左)。小嶋氏は1945年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、銀行勤務を経て1973年に両備運輸入社。両備バス(現両備ホールディングス)社長就任時にグループ代表にも就任。2011年から両備グループ代表兼CEOを務める(写真:両備HD)

和歌山電鉄の場合は「貴志川線の未来をつくる会」という市民団体があり、さまざまなイベントは、この団体をはじめとした地域住民が手伝いをしている。

さらに、自発的に取り組むことで鉄道を残そうとしている。つまり、地域住民の意識と協力ぶりによって地域社会へもたらす効果は変わる。そのことができた後、地域にとって観光で何を売るのかを明確にすることが必要な要素となる。

ほかの観光列車とどう差別化するか

――現在では日本各地に多くの観光列車が走っており、どれも似たり寄ったりな印象を抱きがちですが、どのようにして差別化を図ればいいのでしょうか。

地域住民の熱意で差別化はできる。熱意がベースとなり、物販などさまざまな活動につながるため、1人でも熱意のある人がいれば問題ない。ただ、熱意のある住民が誰もいなければ逆効果になるので早くやめたほうがいい。

――差別化の方法は?

千差万別だ。地域住民の熱意を実行するかしないかが大きなポイントとなり、実行できれば結果的に商売につながるかもしれないし、行政の支援も受けられる可能性がある。ほとんどの場合、熱意さえあればどんなことも成功している。

――和歌山電鉄の場合は駅長「たま」が大きな話題を呼び、差別化につながった印象があります。

「たま」は、貴志駅で駅長を務める三毛猫であり、動物が駅長に就任するという物珍しさから、日本だけでなく世界各国から「たま」を見に訪れるようになった。その結果、乗客が約2割増え、日本の鉄道史以来、地方では非常に珍しい乗客の大幅増へと導いた。

また、和歌山県における観光客の伸び率がいちばんとなっただけではなく、約10億円の観光需要を誘発するなど「たま」によって和歌山電鉄の人気に火が付き、差別化につながった。

――差別化を図るうえでの注意点はありますか。

行政が考案した方法やコンサルティングが立案したものはほとんど失敗している。よって、地域住民から生まれた活動でなければならない。また、地域住民がその鉄道を利用していなければ本末転倒になる。

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