静岡リニア、数字が示す「62万人の命の水」のウソ 流域7市の大井川からの給水人口は26万人程度

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2013年9月、JR東海が作成した環境アセスメント準備書で、リニアトンネル建設によって毎秒2立方メートルの河川流量が減少すると予測したため、川勝知事は毎秒2立方メートルの減少で約62万人の水道水に影響するとして、「全量戻し」をJR東海に要請した。

JR東海は当初、リニアトンネルから大井川まで導水路トンネルを設置して、湧水減少の毎秒2立方メートルのうち1.3立方メートルを回復させ、残りの0.7立方メートルについては必要に応じてポンプアップで戻す対策を発表した。これに対して、川勝知事は「水道水として62万人が利用している。毎年のように渇水で水不足に悩まされている。毎秒2立方メートルの全量を戻せ」とJR東海に求めた。

下流域の7市に水道水を送る大井川広域水道の浄水場(島田市、筆者撮影)
大井川広域水道に統合され、廃止される榛南水道取水地(吉田町、筆者撮影)

JR東海は2018年10月、「原則的に県外に流出する湧水全量を戻す」と表明、導水路トンネル、ポンプアップで、トンネル内で発生する湧水全量の毎秒2.67立方メートルを戻すとした。ところが、川勝知事は「南アルプスは62万人の『命の水』を育む。『命の水』を守らなければならない」などと静岡工区着工を認めない姿勢を崩さなかった。

ところが実際には、大井川左岸の島田、藤枝、焼津の3市とも地下水による自己水源を有しているため、大井川広域水道からの受水割合は20%程度にとどまり、受水割合の高い右岸でも牧之原市が30%、御前崎市が70%程度である。大井川広域水道給水人口は、約62万人ではなく、7市合計で26万人程度にすぎなかった。

県企業局は「大井川広域水道の給水には十分な余裕がある」と言い、流域7市の大井川広域水道からの受水割合も決して高くない。つまり、川勝知事が口ぐせにしていた「62万人の『命の水』を守る」は事実ではないことになる。

トンネル湧水の影響は軽微

JR東海がリニアトンネル工事後に、毎秒2.67立方メートルの湧水全量を戻す方策を明らかにしたことでも、下流域の水環境問題は解決しているはずだが、静岡県は今年1月の大井川利水関係協議会で「工事期間中を含めトンネル湧水の全量戻しが必要」であり、「トンネル工事を認めることはできない」姿勢を崩さなかった。

南アルプス断層帯が続く山梨県境付近の工事で、静岡県側から下り勾配で掘削すると突発湧水が起きた場合、水没の可能性があり、作業員の安全に危険があり、山梨県側から上り勾配で掘削すると説明、まったく対策を取らなければ、県境付近の工事期間中(約10カ月間)最大500万立方メートルの湧水が静岡県から流出するとJR東海は推計した。

国交省が設置した専門家による有識者会議は、「人命安全」を最優先とするのが当然であり、トンネル湧水が静岡県外に流出するJR東海の工法を認めたうえで、山梨県へ流出する最大500万立方メートルについて「静岡県外への流出量は非常に微々たる値であり、中下流域への影響はほぼない」とする結論を出している。

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