ニチガス社長、「ガス業界再編の核になる」 電力とガスの全面自由化で練る野心的計画

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試練をバネに変え、構造改革を加速

ニチガスは過去数年、自由化と業界再編に備えて自ら構造改革を加速してきた。最大の成果が、クラウドとモバイルの連携による独自の新業務管理システム「雲の宇宙船」だ。顧客のガスメーターにQRコードを設置してスマホで読み取ることで、クラウドを通じて顧客情報をリアルタイムで把握でき、配送・検針・保安など基幹業務の効率化に威力を発揮している。各種特許を取得しており、電力や水など他業種にも応用可能であるため、垣根を越えた合従連衡でシナジーを生み出す強力なツールになると同社は考えている。

物流改革もスケールアップした。千葉の輸入基地の隣接地に巨大なLPガス充填工場を10年に建設。ここで効率よく大量のボンベに充填し、夜間にトレーラーで各地へ運搬。無人デポステーションでボンベを小型配送車に積み替えるという物流システムを確立し、配送費を大幅に低減させた。

さらに、エネルギー自由化先進国のノウハウを吸収するため、米国と豪州で電力とガスの小売り事業を展開してきた(豪州では13年にいったん終了)。10年に進出した米国では電力・ガスの調達で北米シェル社と提携。顧客件数は約15万件だが、2年間固定料金など日本にはまだない多様なメニューを提供しており、日本の自由化に備えた“予行演習”を行っている。

これら構造改革を促す契機となったのが、LPガス業界の盟主で“兄弟会社”でもある岩谷産業との関係断絶だった。09年に岩谷が「営業方針の違い」からニチガスへの卸供給を停止(13年には資本関係も消滅)。その試練を構造改革のバネにした。「結果として、うちが成長したのはそのあとだ」と和田社長は話す。11年には米国金融大手JPモルガンの投資部門であるOEPと資本業務提携を締結(資本提携は14年に解消)。「世界最先端の資本政策を学んだ」(和田氏)ことも改革を促す刺激となった。

資本提携で「社名を捨てても構わない」

和田社長は確信に満ちた口調でこう言う。「資本の動かない業務提携なんてありえない。そんな覚悟のない、戦う表明もないような業務提携など、マーケットでは誰も評価しない。われわれは地域に圧倒的に貢献できるのであれば、日本瓦斯の名前にもこだわっていないし、われわれが存続会社でなくても構わない。ただ、われわれが下流側で持っているノウハウは絶対に必要とされるので、それを高く評価してもらえるなら、捨てるものは捨ててでも組んでいく」

自由化のスケジュールを考えれば、近いうちにも上流との垂直統合を含めたアライアンスのスキームが明らかにされる可能性がある。その内容次第で、国内エネルギー業界の再編機運が一段と高まりそうだ。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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