新iPhoneに「衝突事故検出」搭載された納得のワケ 車を何度も何度も衝突させて実験を繰り返した

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新たに256Gまで検出できる加速度センサー
新たに256Gまで検出できる加速度センサーやジャイロスコープ、マイク、気圧計といったセンサーを連携させ、重大な衝突事故を検出する仕組みを作り出した(画像:アップル)

「新しいモーションセンサーは、最大256Gを感知する性能を誇ります。映画『トップガン マーヴェリック』でミサイルが山にぶつからないようにするために引っ張るシーンがあります。これで9〜10Gと言われており、パイロットは失神するほどですね。

我々が日常経験しうる自動車事故では、50Gを下回ります。しかし衝突の衝撃は鋭く非常に短いため、より高い性能とダイナミックレンジが必要になります。同時に、iPhoneにもApple WatchにもGPSが備わっており、衝突直前の速度を把握しつつ、衝撃と減速を正確に測定することができます。

しかし、それだけでは事故を検出できません。例えば、信号待ちで止まっているときに後ろから追突される場合、事故の衝撃はスピードの変化を伴いません。そこで、圧力センサーで車内の圧力の変化を検出したり、衝撃音の大きさをマイクで拾い、衝突の可能性を判断する必要があるのです」(ファング氏)

何度も何度も実際に車を衝突させた

機械学習のアルゴリズムを作るため、さまざまな事故のパターンのデータが必要となり、実世界の運転データと衝突実験のデータの双方を用いることにした。特に実験では、何度も何度も実際に車を衝突させて繰り返したという。

「衝突実験では、運転席や助手席、後部座席に座らせたダミー人形の両腕にApple Watch装着しました。またiPhoneは、ポケットだけでなく、合法的な運転シナリオにおいても、車内のさまざまな場所に置く可能性があります。カップホルダー、ダッシュボード、助手席の上など、たくさんの場所に取り付けました。

続いて衝突のパターンもさまざまです。前面・側面・後面といった衝突箇所や、障害物にぶつかる、溝に脱輪して横転するなど、ケガをする可能性のある衝突の原因に沿って実験を繰り返します。さらに、セダン、ミニバン、SUV、ピックアップトラックなど自動車のタイプによっても、そのパターンは変わってきます。

また、衝突事故を起こしていない環境で受けるモーションセンサーなどのデータを収集する必要もあるのです。実際の衝突ではないが、衝突に近い、という状態を把握することで、誤検知を防ごうとしているのです」(ファング氏)

衝突事故のイメージ画像
衝突事故の検出機能を作り上げるまでに、アップルは、センサー等のハードウェア、ソフトウェアとの連携を通じたアルゴリズムの構築に数年を費やしたという(画像:アップル)

こうしてアップルは、400万台の走行と実験の車両から、実に数千万台分のデバイスのデータ、そして合計数百万時間分の運転データを取得し、アルゴリズムの構築を行った。これだけのデータを蓄積するだけで数年間を要し、さらにアルゴリズムの開発と、小さなデバイスへの実装のためのセンサーの調達も同時並行して実現した機能だったのだ。

アップルが主要デバイスに搭載した自動車の衝突検出機能は、ハードウェアやソフトウェア、アルゴリズムをそれぞれ数年単位で準備して実現したことがわかった。

残念ながら、実際にこの機能を「試す」ことは難しいが、アップルはどんな事故を想定して、この機能をデバイスに採用しているのだろうか。

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