フィリピンの団結を訴えても社会分断は深いまま マルコス大統領就任100日、歴史修正の動きも

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首脳会談と同じ日にニューヨークで講演したボンボン氏は「中国との間で領有権をめぐる紛争はない。中国がフィリピンの領域を自国領と言っているに過ぎない」と話した。

中国への対応については選挙前から立ち位置を変えたようにも見える。米政権の働きかけがあったのだろう。

フィリピンの世論はそもそも中国に比べ、圧倒的にアメリカに好意的だ。国軍幹部の多くもアメリカへの留学経験がある。ドゥテルテ氏は退任まで高い支持率を維持したが、対中接近に関しては軍内部でも受けが悪かった。新大統領がそうした世論を意識した可能性もある。

地政学的重要性が増すフィリピン

岸田文雄首相も2022年9月21日にアメリカでボンボン氏と会談した。インフラ開発・経済協力を強化し、南シナ海や東シナ海問題については地域の平和・安定をともにめざすと確認したという。

マルコス一家が1986年2月、街角を埋め尽くした「ピープルパワー」によって追放された後、日本の政府開発援助(ODA)事業で日本の商社などと深く癒着していたことが残された文書で明らかになった。マルコス疑惑として国会でも大きく取り上げられ、ODAのあり方が厳しく批判された。そうした過去は恩讐の彼方に去り、日比両政府は大統領の公式訪問の打ち合わせを進めている。

日米の厚遇は、中国の膨張によりフィリピンの地政学的重要性が増していることの反映である。有事が懸念される台湾に最も近い隣国でもある。

フィリピン政府は、大統領の訪米で39億ドル、それに先立つインドネシア、シンガポール歴訪で143億6000万ドルの投資の約束を取りつけたと発表した。もっともドゥテルテ前大統領は2016年10月の初訪中の際、240億ドルの約束をとりつけたと発表したものの、6年後の退任までに果たされた約束はほんのわずかだったとされる。

外交では結果を出したとして、国内的には目立った成果はまだ出ていない。「麻薬を半年で撲滅する」と誓った前任者や、「汚職追放」を掲げたアキノ元大統領に比べ、選挙戦では「団結」を訴えただけで、具体的な公約がそもそも乏しかった。

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