焼肉ライク、快進撃も通って感じた「一抹の不安」 「いきなりステーキの二の舞い」がちらつく要因

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現在のところ、それらの取り組みは功を奏しているようにも見える。

だが、先にも挙げたように、一歩道を踏み外すと、店にとっては大きな損失になりかねないのもまた事実だ。楽しい施策が、結果的に「ひとり焼肉」というコンセプトを失わせて、焼肉ライクのターゲッティングを曖昧にしてしまう可能性はないか。

ファミリー向け店舗や焼き麻婆豆腐などの施策を見ていると、筆者にはどうしてもそのような不安が浮かんでしまうのである。

いきステも凋落前に「立ち食い」を見失う

いきなり!ステーキが凋落し始めたのも、直接的には肉マイレージシステムの改悪が最大の要因ではあるだろうが、一方で経営層の「コンセプト軽視」が根幹にあったのも否めないだろう。

そもそも同チェーンは「立ち食いで回転率を上げる。その結果、低価格で高品質のステーキを提供する」というコンセプトだったが、イスが欲しいという客の要望に良かれと思って応えた結果、いつの間にか立ち食いではなくなった。2016年頃からそういう店舗が増えていったと記憶しているが、数々の迷走は実際、その後起きていった。

時には行列がみられるほどの盛況ぶりだったいきなりステーキ。今思えば「立ち食い」も店に活気を与える要素の1つだった(撮影:梅谷秀司)

だからこそ、気になるのは、次々と打ち出される戦略の中に一貫した「コンセプト」があるのかどうか、そして全社的に創業時の「コンセプト」が共有されているのかどうか、ということである。

コロナ禍の追い風もあってそうしたコンセプトが拡散していくことも、現在ではあまり表立って問題にされていない。しかし、世情は移り変わっていく。現在行っている取り組みが突然、焼肉ライクに牙を向けることも考えられるだろう。

外食産業の移り変わりははげしい。そのように変化が多い業界だからこそ、その最大の魅力を忘れないでほしいと、一消費者として切に願っている。

谷頭 和希 チェーンストア研究家・ライター

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たにがしら・かずき / Kazuki Tanigashira

チェーンストア研究家・ライター。1997年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業、早稲田大学教育学術院国語教育専攻修士課程修了。「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 第三期」に参加し宇川直宏賞を受賞。著作に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』 (集英社新書)、『ブックオフから考える 「なんとなく」から生まれた文化のインフラ』(青弓社)がある。テレビ・動画出演は『ABEMA Prime』『めざまし8』など。

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