核を使ってもプーチンの「目標」達成は無理筋な訳 戦術核は「使えない兵器」が西側専門家の結論

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それでもプーチン氏は、得られるものよりも、はるかに大きなリスクに直面する公算が大きい。核を使えばロシアは国際的に孤立。西側はここぞとばかりに、ロシアから石油やガスを買い続けている中国やインドなどを対ロシア制裁の輪に引き込もうとするだろう。さらに卓越風(偏西風)に乗って、ロシアが使用した核兵器の放射性物質がロシアの領土に降り注ぐ可能性も容易に想像がつく。

ロシアが核を使用した場合にはどんなことが起こりうるのか。それに対しアメリカはどう対処しうるのか。それをモデル化しようと、アメリカの国防総省、核研究所、情報機関はここ何カ月とコンピューターでシミュレーションを繰り返している。しかし、これは簡単な仕事ではない。というのは、戦術核の規模と種類が多岐にわたるためだ。その破壊力は大部分において、1945年にアメリカが広島と長崎に投下した原爆に比べると、はるかに小さい。

プーチン氏は激しい口調で行った9月末の猛々しく威圧的な演説で、広島と長崎に原爆を落としたアメリカが「核使用の前例を作った」と述べた。

アメリカ当局のシミュレーション結果

アメリカ政府のシミュレーションに通じた当局者は、シミュレーション結果はプーチン氏の標的次第で大きく変わると語った。ウクライナの人里離れた軍事基地や小さな町が攻撃されるシナリオのほか、黒海上空で「デモンストレーション」的に核が爆破されるシナリオも想定されているという。

ロシアの戦術核兵器は厚いベールに包まれているが、規模、威力においてさまざまなタイプがある。ヨーロッパ諸国が最も懸念しているのは、「イスカンデルM」ミサイルに搭載され、西ヨーロッパの都市に到達する可能性のある重弾頭だ。ロシア側が示したデータによると、イスカンデルに搭載できる核弾頭の爆発力は、最小のもので広島に投下された原爆の約3分の1とされる。

致死性の放射性物質に関しては、現実に比較可能な劇的事例がウクライナには1つ存在する。4基の原子炉のうち1基がメルトダウンと爆発を起こし、原子炉建屋が破壊された1986年のチェルノブイリ(チョルノービリ)原発事故だ。

当時は南と南東からの風が優勢で、放射性物質を含んだ雲の大部分はベラルーシとロシアに流れていった。これよりレベルは低かったとはいえ、ヨーロッパのほかの地域(とくにスウェーデンとデンマーク)でも放射性物質が検出されている。稼働停止した原発周辺の土地は今もまだ、部分的に放射能に汚染されたままだ。

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