「ベニクラゲ」が死なないのは若返り続けるから 不老不死のクラゲの研究は人間に適用できるか

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通常は保存されているDNAがクラゲの変身段階で持ち出され、細胞のリセットを促す遺伝子がフル回転することを示唆する動きだ、とパスクアル・トルネル氏は言う。

テキサスA&M大学ガルベストン校の海洋生物学教授で、同じくベニクラゲを研究しているマリア・ミグリエッタ氏は、今回の研究の発見は、自身の研究グループが昨年行った同種の研究結果を裏付けている、と話した。ミグリエッタ氏のチームはその研究で、DNAの修復と保護に関連する遺伝子がクラゲの若返りに関与していることを突き止めていた。

どちらの研究結果も、クラゲの若返りにおいては遺伝子がいつ、どれだけ発現しているかが、遺伝子そのものと同じくらい重要であることを示している。言い換えれば、不老不死の遺伝子は存在しないが、その手順は確実に存在するということだ。

若返りの泉はクラゲだけのもの

研究者たちは、このようにして繰り広げられる「DNAのダンス」の解明が進むことを期待している。仮に貯蔵タンパク質に手を加え、その活性を維持したら、クラゲは若返ることができるのか。それとも、人間と同様に年を取ることしかできなくなるのか。

それでも、人間がベニクラゲの若返りの秘訣を利用できるようになることはなさそうだ。

「私たちの研究目標は、人間のために不老不死の方程式を見つけることではない」とパスクアル・トルネル氏は言う。「クラゲは人間とはまったく違う。これは個別の遺伝子や複合体の問題ではない。私たちの発見によれば、それはメカニズム全体が連動することによって、もたらされている」。

ベニクラゲの体内で起こっているのと同様のプロセスが、人体にも存在するのかどうかは定かではない。しかし、この若返りの泉は、まだしばらくの間はベニクラゲだけが独占することになるのだろう。

(執筆:Veronique Greenwood記者)
(C)2022 The New York Times

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