反EUの「英国独立党」、誰が支持しているのか 党大会開催の海岸の町で市民に聞く

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欧州議会議員でもあるファラージ党首は、マーゲート近くのサウス・サーネット選挙区で立候補予定だ。市民の中にはUKIPを「反移民の人種差別主義政党」と受け止める人が少なくない。欧州では最も強い嫌悪の言葉のひとつ「ナチス」という表現を使うほどの強い反UKIP感情が存在している。

「ここはUKIP支持派と反支持派の2つに大きく分かれている」と宿泊施設の管理人が言っていたことを思い出す。「どちらも中高年だけどね。若い人は政治に興味がないから」。

近代政治史上、前代未聞の業績

UKIPの躍進を「英国の近代政治史上、前代未聞の業績」と位置づけるのが『右派の反抗』である。

主要政党の枠の外からやってきた政治勢力による「反抗」にはいくつかの重要な点があったという。

まず、「政治議論から阻害されていた人々に声を与え、政治の主流に置いた点」である。「これまで数十年にわたり、社会的に阻害されてきた人々」とは、「年齢が上で、スキルが低く、高等教育を受けていない、労働者階級の有権者」だ。

UKIPは、こうした層の人々とリベラルな中流階級との間にある「ギャップを顕在化させた」。UKIPの支持層は決してEU脱退のみ、あるいは反移民のみを願う人ばかりではなかった。グローバル化する社会に適応できないと感じる人々だった。

2013年、ファラージ党首はこう言ったそうだ。「UKIPは圧力勢力ではない。保守党からのスピンオフでもない。新しい政治勢力だ」。

『右派の反抗』の調査によれば、UKIPと言えば「右派政党」、「極右派」とさえ言われてきたが、実は「労働党支持者がUKIPに流れている傾向がある」という。

3月上旬現在、UKIPは世論調査では第3党の支持率を集めている。しかし、下院議席数は2つのみ。5月の総選挙後は多くても10議席獲得と言われている。

10議席程度でどれほどの政治的影響力を持ちうるかは疑問だが、EU脱退を含め、「自分の声を聞いてくれない」と政治的に疎外感を持つ国民の声に対し、新政権は解決策を出す必要がある。脱退の是非をめぐる国民投票の早期実行が視野に入ってきそうだ。

また、UKIPがさらに支持を拡大するには、これまで同党に賛同しなかった層にアピールする政策作りも必須だ。

「ピークが過ぎた」とも言われるUKIP。5月、はたして欧州議会選挙の時のような「驚きの勝利」が再来するだろうか。

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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