後塵拝した仏ゲーム会社が世界を席巻し始めた訳 「デトロイト・ビカム・ヒューマン」の次を狙う

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フランスの業界団体、全国ビデオゲーム連盟(SNJV)のジュリアン・ヴィルデュー・マネージングディレクターが同国のゲーム企業の強みとして挙げるのは「創造性」だ。

同国政府はゲームを戦略的産業部門として重視。スタートアップ企業の支援などに力を入れる。国レベルにとどまらず、特定の産業や関連企業を集めることで地域経済の活性化を図る「クラスター」と呼ばれる仕組みも多くの地域で導入されている。「クラスター」は「ぶどうの房」を意味する言葉だ。

ミクロスタジオが拠点とするリヨンを含むオーベルニュ・ローヌ・アルプ地域圏でも、ゲーム、アニメ、映画といったコンテンツなどデジタル技術関連の「クラスター」が2005年に始動。官学と連携する形で産業振興への取り組みが進む。

こうした「エコシステム」がクリエイティブな発想を生み出す土壌を支え、海外企業や投資家らの呼び水となっている。SNJVのヴィルデュー氏は前出のネットイースによるクアンティック社買収について、「仏ゲーム業界のエコシステムが非常に魅力的なことの現れ」と指摘する。

同時に、「資金面でのエコシステムが脆弱であることも意味している」(同氏)。クアンティック、ミクロ両社に共通するのは海外での販売比率の高さだ。会社の規模は異なるが、仏国内での売り上げはクアンティック社が全体の4%、ミクロ社も10%にとどまる。

グローバル展開に本腰を入れるには、ネットイースのような強力な後ろ盾が不可欠だろう。世界30カ国・地域にスタジオなどを構えるユービーアイソフトやハイパーカジュアルモバイルゲームで名を馳せたブードゥーなど一部を除けば、世界を舞台に活躍する仏企業はさほど多くない。欧州連合(EU)を代表するゲーム大国はドイツ。東京ゲームショウの会場にも「ドイツパビリオン」という同国の複数企業の出展スペースがあった。フランスはドイツの後塵を拝する。

ディズニーと組んで大作を開発中

クアンティック社は現在、ウォルト・ディズニー傘下のルーカスフィルムが立ち上げたゲームブランドの「ルーカスフィルム・ゲームズ」といわゆる「トリプルA」タイトルのアクションアドベンチャーゲーム、『スター・ウォーズ・エクリプス』の共同開発に取り組む。

それを踏まえると、ネットイースによる買収では「ディズニー」というブランドがクアンティック社の信用力を補完した面もありそうだ。IP(知的財産権)戦略の巧拙が仏ゲーム企業の海外におけるプレゼンス向上のカギを握っている。

松崎 泰弘 大正大学 教授

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まつざき やすひろ / Yasuhiro Matsuzaki

フリージャーナリスト。1962年、東京生まれ。日本短波放送(現ラジオNIKKEI)、北海道放送(HBC)を経て2000年、東洋経済新報社へ入社。東洋経済では編集局で金融マーケット、欧州経済(特にフランス)などの取材経験が長く、2013年10月からデジタルメディア局に異動し「会社四季報オンライン」担当。著書に『お金持ち入門』(共著、実業之日本社)。趣味はスポーツ。ラグビーには中学時代から20年にわたって没頭し、大学では体育会ラグビー部に在籍していた。2018年3月に退職し、同年4月より大正大学表現学部教授。

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