東京からもっとも近い被災地・浦安(2) 市民の日々の生活にも大きな影響が

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東京からもっとも近い被災地・浦安 現地ルポ【下】 生活編

浦安市の鉄鋼通り周辺を自転車で走っていて感じたのが、行きかう人々がみな大きなマスクをしている、ということ。花粉症のシーズンだから当然、と言ってしまえばそれまでだが、この場所では別の理由があった。噴出した泥砂が乾燥し、あたり一面を白く覆っているため、鼻の奥の粘膜にも何かが張り付くような不快感があるのだ。「マスクをしてくればよかった!」と後悔したが、持っていないものは仕方がない。ただ、タートルネックのセーターを着ていたため、これを鼻まで引き伸ばすことでマスク代わりにすることができた。

 鉄鋼通りの取材を終え、続いて向かったのが浦安市役所。JR京葉線の高架と平行している県道276号線を北東に進む。途中で左側に見えた富岡交番は衝撃的だ。なんと液状化により交番が傾き、出入り口の下部分が土の中に沈んでいるのだ(1)。


(1)泥に沈んでしまった富岡交番

 さらにまっすぐ進むと、境川という小さな川の手前に、順天堂大学医学部付属浦安病院が見えてきた。病院周辺の歩道は点字ブロックを切れ目に、アスファルトが裂けている。陥没により発生している段差はおよそ10センチ程度だが、自転車や歩行者がすれ違う際には注意が必要だ。もちろん、多くの入院患者を抱えるこの大病院も断水しており、災害派遣された陸上自衛隊による給水活動が命綱になっている(2,3)。

市役所に向かうため境川を超える際、下流方向を見ると、船着場が壊れていた。今回の地震によるものだろうか(4)。

 


(2)点字ブロックを境目にして裂け目。左が順天堂大浦安病院
 

(3)災害派遣された陸上自衛隊の車両が給水活動に従事している
 

(4)古い船着場が崩落しているのは地震の影響か?

 
 浦安市の本庁舎を訪ねるのははじめて。今回の震災とは関係のないことだが、建物が古くて質素なことに驚いた。隣接した第2庁舎にいたってはプレハブの建物だ。本庁舎の入り口には、災害対策本部は隣接する集合事務所にある、との張り紙があったので、集合事務所へ向かう。その途中にある駐車場には、「陸上自衛隊指揮所」が置かれていた(5)。

 


(5)本庁舎横の駐車場には陸上自衛隊の指揮所が置かれている

 集合事務所の3階には災害対策本部が置かれ、防災服に身を包んだ多くの市の職員が働いていた。ここでは、市長公室広聴広報課の中谷和久課長が取材に応対してくれた。

その取材メモを元に被災状況、被災者支援、復旧へ向けた見通しをまとめると以下のようになる。上水と下水に分けて記載しよう。

上水道……元町地域への上水供給も危ぶまれる状態に

・上水道を運営しているのは、千葉県水道局。

・3月13日までに市内102カ所で水道管の破断がみつかった。

・そのため現在、通常1日3500トンの給水を1日8000トンまで圧力を高めて上水を供給。しかし、破断が激しく市内の4分の3の地域で断水している。断水しているのは、中町や新町などの埋立地域で、断水していないのが元町地域。

・給水については当初は市川市妙典から陸路で運んでいたが渋滞により往復2時間も掛かる状態になった。そのため現在は千鳥地区に着岸した海上自衛隊横須賀地方隊の給水船が300トンの水をストックし、ここから16箇所の給水所に陸路搬送している。

・上水搬送には県水道局の車両のほか陸上自衛隊が協力しており、5トン車2台、1トン車7台が活動している。

・復旧について。1日15~25箇所のペースで修復が進んでおり、3月17日までに復旧できると考えていたが、計画停電の実施によりその計画は不透明になった。

・計画停電実施により現在1日8000トンに高めている水圧は4割減の1日3200トンへ低下する恐れがある。こうなると元町地域も断水の恐れがある。

・元町地域では、すでに中高層マンションでは影響が出ている。一定の圧力以下になってしまうと、屋上まで水道をくみ上げる増幅ポンプが機能しなくなるためだ。

下水道……被害状況の把握進まず

・下水道を運営しているのは、浦安市下水道課。

・中町、新町では下水道管がかなり広範に破断している。しかし、水圧の変化した箇所を探ることで破断箇所が判明する上水とは異なり、被害の全容を把握するのが難しい。マンホールを開けて中に入ってチェックするしかない。

・仮設トイレは市が152カ所に設置。このほか、各自治会、団地やマンションなどが200カ所以上に設置している。

・トイレを使わないでくれ、といっても、給水場で水をもらってきてそれをトイレのタンクに入れて使って流してしまうケースも考えられるが、これはやめてほしい。

・溜まってしまったものはバキュームで吸い上げに行くが、復旧までは少なく見積もっても1カ月以上掛かってしまうため市民の協力が必要になる。

 ※  ※  ※ 

水道は、上水道と下水道がセットになってはじめて機能するのだ、ということをあらためて感じさせられる。「トイレが使えない」という事態は生活をする上ではかなり深刻であり、被災地域の住民は都内ホテルや近郊の親戚の家などに避難するケースが続出している。しかし高齢者の多い美浜などの町では、避難できない人々も多数いる。自治体が高齢者をしっかりフォローしなければ、2次災害の広がりも懸念される。

上下水道が大きな被害を受けた一方で、電気・ガスの被害は比較的軽微だ。電気については市内全域で使用できる状態だ。ただし東京電力による計画停電の対象区域であり、今後は不便を強いられる可能性がある(3月14日の16時前から、主要交差点に警察官が待機し、信号停止に備えていたが、結局、停電はなかった)。

ガスについても供給停止地域は限定されている。京葉ガスによると14日19時時点でガス供給を止めているの、戸建住宅が多い中町地域(入船4~6丁目、今川4丁目の一部、富岡3丁目の一部、弁天1~4丁目)の4881件。3月15日は入船4~6丁目地区のガス管の点検、修繕、開栓作業を中心に行う予定だという。しかし、いくらガスが通じたところで、上下水がなければ風呂に入ることもできない。上下水の一刻も早い復旧が待たれるところだ。

市役所での取材を終え、JR京葉線の新浦安駅周辺に向かった。駅のそばにある交差点の公衆電話ボックスは大きく傾いていた。戸建住宅の被害もひどく、ブロック塀が倒れているような場所もあった(6,7)。

復旧は急ピッチで進んでいる。時間の経過とともに、浦安のベイエリアは元通りの洗練された街並みを取り戻すだろう。しかし、高級マンション・戸建住宅が立ち並ぶ「憧れの街」は、この震災の前と後で大きくそのイメージを変えてしまったことは間違いない。


(6)傾いた公衆電話ボックス。奥にみえるのが新浦安駅
 

(7)パタリと倒れたブロック塀。もし歩行者がいたら一大事だった
山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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