「絵に描いた餅」になりがちな企業の非常時対応、首都圏は天災人災に備えているか【震災関連】

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そこで、首都圏のライフライン・インフラをみると、まず、電力については、経済活動の中心地である東京都中央区、千代田区などに不安は拭えない。電力は発電所から高圧線を経由して変電所に送られて、変電所が企業などに送電するようになつている。しかし、千代田区などの場合、企業などに送電する変電所はひとつしかない。

もし、この変電設備が地震、津波など不測の事態に巻き込まれたら、経済活動の中心地への送電はストップする。しかも、丸の内、大手町などでは送電は。企業間を接続して全体にいきわたるループ方式で行われており、そのループ内の1社が不測の事態に陥ると、連鎖的に送電がストップするリスクがある。

言うまでもなく、千代田区などには大企業の本社機能が集中している。その部分の経営インフラに重要な支障が発生した場合の混乱は容易に想像できるだろう。

したがって、多くの大企業が自家発電設備を整えているが、整備すれば万全というわけでもない。たとえば、同設備には冷却装置が不可欠であり、その場合、空冷式であれば不安は少ないものの、水冷式の場合には、水の供給が途絶えた場合、冷却水の注入に支障を来たした福島原発のような事態になりかねない。

電力と同様に、千代田区などは水供給の経路も一系統だけであり、もし、この供給系統に支障が生じた場合、水冷式の自家発電装置は「絵に描いた餅」となりかねない。つまり、個別企業がBCP体制を整えたとしても、それを支えるインフラ部分のBCPが万全でなければ意味を失う危険性があることになるわけだ。

一方、企業が万全なBCP体制を整備することは難しい面もある。上場企業の場合、その筆頭に上げられるのが、利潤の拡大には結びつかない巨額投資に対する「株主への説明」のむずかしさだ。企業内でも、なかなか前向きになりにくい投資でもある。その結果として、従来、BCPそのものが「机上の空論」とみられがちだった面もある。

しかし、企業にとって、業務の安定遂行は利潤拡大と同様に重要かつ社会的な使命である。多大な犠牲を伴って発生した今回の大地震を無駄にしないように、官公庁、企業はBCPへの取り組みを従来にもまして本格化させないといけない。株式市場も利潤規模だけではなく、BCP体制構築による事業継続能力の有無も投資尺度として位置づけていくべきだ。

(浪川 攻=東洋経済オンライン)
 

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