ペッパーの価格に透ける、ソフトバンクの本気 目指すは自動車型ビジネスモデルの構築?

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自動車は安全性が重要だ。一方、その機構上、故障と無縁ではいられない。日本の自動車補修市場(アフターマーケット)は、約10兆円の規模を持つ。自動車を売るだけでなく、それを使い続けるところに「産業」があるわけだ。

自動車のように高速で移動するわけではないから、ロボットはそこまでメンテナンスが必要なものにはならないだろう。だが、家庭内に人と同じサイズの機器があり、動き回り、身振り・手振りでコミュニケーションを取る、と考えると、故障などの想定外の事態によって事故が起きる可能性も否定できない。

それを防ぐには、まず「故障対策」をしっかりしたうえで、なにかが起きた時に保険などでカバーできるよう考えておく必要がある。だからこそ、Pepperには「Pepper 保険パック」があるのだ。

長期的、かつ密接な関係を構築する

また別の観点として、「ほとんど壊れないロボットを作る」ことが、コスト的に難しい、という事情もあるだろう。故障の確率を極限まで下げるためにコストを負担してロボットを高価なものにするより、納得できる範囲の故障率に抑えてトータルコストを下げる方がいい。

ソフトバンク自身、Pepperが「販売価格を上回るコストで作られた最先端の精密機器のため、修理に30万円~70万円程度かかることがあります」(同社ウェブより引用)としている。サポートのために長期的かつ密接な関係構築が必須であるならば、本体の購入価格でなく、サポートコストまで含めた形でビジネスモデルを構築する方がいい。

自動車メーカーは、自動車を販売した後もメンテナンスなどのサービスを通じ、顧客との関係構築を続けることに腐心している。自動車の中に通信モジュールを内蔵する動きが広がっているが、これも、自動車の状況をメーカーに送り、サポートやサービスの助けとすることが狙いである。遠からず、ありとあらゆる自動車に通信回線が標準装備され、顧客と長期的な関係を構築するのがあたりまえの時期がやってくるだろう。

そう考えると、ソフトバンクはPepperというロボットで、「スマホ的であり自動車的」な顧客との関係構築を狙っているのではないか、という結論に行き着く。サービス面はスマホ的だが、ハード面は自動車的。売り切りでない商品の世界の最前線にいるのが家庭用ロボットだ……と考えると、新しいビジネスの可能性も、色々見えてきそうだ。

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西田 宗千佳 フリージャーナリスト

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にしだ むねちか / Munechika Nishida

得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、『アエラ』『週刊朝日』『週刊現代』『週刊東洋経済』『プレジデント』朝日新聞デジタル、AV WatchASCIIi.jpなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。著書に『ソニーとアップル』(朝日新聞出版)、『漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち』(講談社)、『スマートテレビ スマートフォン、タブレットの次の戦場』(アスキー新書)、『形なきモノを売る時代 タブレット・スマートフォンが変える勝ち組、負け組 』『電子書籍革命の真実 未来の本 本のミライ』『iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』(すべてエンターブレイン)、『リアルタイムレポート・デジタル教科書のゆくえ』(TAC出版)、『知らないとヤバイ! クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?』(共著、徳間書店)、『災害時 ケータイ&ネット活用BOOK 「つながらない!」とき、どうするか?』(共著、朝日新聞出版)などがある。

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