自動運転の未来を切り拓く、特殊塗料開発の裏側 塗るだけで自動運転車のレールとなる特殊塗料

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自動運転バスの走行シーン(筆者撮影)

自動運転バスは、中山間地域など、公共交通機関が少なく、高齢者も多いエリアで、住民が買い物や病院などに行くなど、日常の足としての活用も期待されている。ただし、そうしたエリアでは、産業が少ないなどで、自動運転バスなどを導入するための予算が取りづらい自治体も多い。ターゲットラインペイントは、そうした費用面での課題解決にも貢献するという。

ターゲットラインペイントの課題

大前教授によれば、「雨が降ると、LiDARのレーダー光を雨が反射して、ターゲットラインペイントを認識しにくくなる」という。ただし、GPSやLiDARは正常に動作するので、場所や状況によって自己位置推定の精度が落ちる場合こそあるが、雨天でもまったく自動運転ができなくなることはないそうだ。なお、先に紹介した対馬市での実証実験では、ターゲットラインペイントをメインに使ったが、実験期間中は幸い降雨がなかったことも、うまく実験が進んだ要因のようだ。

ターゲットラインペイントは、ほかにも冠水路や大雪で道路が積雪した場合など、道路が見えなくなる状況では使えないという。前述した磁気マーカーや電磁誘導線などの場合、降雪があっても問題はないため、雪国などで使われるケースも多い。ターゲットラインペイントは、道路に塗装するだけと比較的簡単に実施できるので、コスト低減などには優れるが、現状では、悪天候時などには課題も残るようだ。

自動運転バスの未来予想

少し余談となるが、バス会社にとっても自動運転バスは、「運転手不足」という大きな課題を解決する手段のひとつだ。現在、多くの企業が実用化に向けたさまざまな取り組みを行っている。神奈川中央交通が当実証実験に参画している主な理由も、そうした背景によるところが大きい。主に神奈川県内や多摩地区などで路線バスを運行する同社では、とくに中山間地域を走る路線などでは、利用客が少なく、採算が取りづらいことも相まって、人数が減少している運転手をあてがえない状況にあるという。そのため、同社では、プロジェクトで得た知見や技術を活かし、将来的に一般路線への‪自動運転バス導入も目指すという。‬

今回開発されたターゲットラインペイントは、まるで道路に敷かれたレールの上を走るような運行ができるため、自動運転車の実用化が比較的簡単にできることもメリットだ。複雑な装置がなくても自動走行が可能なため、車両の開発コスト、ひいては車両代を抑えることにもつながるだろう。先に紹介した導入やメンテナンス面のコストを削減できることもあり、とくに予算が少ない自治体などでは、実用化のハードルを下げる点で注目される。

雨風や気温などによる塗料の耐久性や、塗装後どれくらいの期間で塗り替えが必要かなど、まだまだ検証や改善すべき点も多いが、大きな社会課題の解決への貢献が期待されるだけに、今後の動向に注視したい。

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平塚 直樹 ライター&エディター

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ひらつか なおき / Naoki Hiratsuka

1965年、福岡県生まれ。福岡大学法学部卒業。自動車系出版社3社を渡り歩き、バイク、自動車、バス釣りなどの専門雑誌やウェブメディアの編集者を経てフリーランスに。生粋の文系ながら、近年は自動運転や自動車部品、ITなど、テクノロジー分野の取材・執筆にも挑戦。ほかにも、キャンピングカーや福祉車両など、4輪・2輪の幅広い分野の記事を手掛ける。知らない事も「聞けば分かる」の精神で、一般人目線の「分かりやすい文章」を信条に日々奮闘中。バイクと猫好き。

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