稲盛和夫さんの『生き方』が強烈に支持された訳 日中で累計730万部の著書はどう広がっていったか

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稲盛さんが若かりし頃、京セラの幹部に向かって話をしているビデオを見たことがあります。話し終わった後、コの字型に並べられたテーブルの中央に座っていた稲盛さんが「今、オレが言ったことがわかったか!」と言わんばかりに、黙って右から左へ幹部をねめつけるその表情が忘れられません。身体全体からメッセージは発せられるのです。

かつて稲盛さんは強烈なヘビースモーカーでした。もうもうと煙りが立ちこめる会議室で、時に幹部に向かって怒りのあまり、灰皿を投げつけたことは一度や二度ではなかったそうです。信念がほとばしる、激しい情熱の人でした。

稲盛さんが私財を投じて作った京都賞に私もお招きをいただいていましたが、今も覚えているシーンがあります。晩餐会前のアペリティフタイム、カウンターでワインをもらおうとしていた私を見つけた稲盛さんが、「おぉ、植木さん、私のワインをあげるよ」と声をかけてくださったのです。

稲盛さんが遺した最高の言葉

もちろん遠慮しましたが、なんという人かと感激しました。京都賞の晩餐会という晴れの舞台の前でも、私のような人間に気を配ってくださった。本当に飾らない、人を大事にする人でした。

単なる言葉ではないのです。言葉になる前に行動がすでにあるのです。それが立ち居振る舞いに出る。頭から動くのではなく、身体が動いて、その中から言葉が出てくるのです。

稲盛さんの言葉の中で、私が最も好きなものは、『京セラフィロソフィ』の中にある、次のような言葉です。

「つまり、強く持続した思いが実現するということは、普遍的な真理なのです」

生き方
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また、稲盛さんが大切にしている言葉に、「なんまん、なんまん、ありがとう」というものがあります。これは稲盛さんが子どもの頃に故郷の鹿児島にあった「隠れ念仏」という風習のなかでお坊さんから授かった言葉で、それ以来、ことあるごとに口にしてこられた「感謝の言葉」です。

稲盛さんが遺された教えを、すべて完璧に実践するのは難しいことです。京セラの哲学を記した『京セラフィロソフィ』について、稲盛さんはこう語られていました。

「では、全部、自分ができているかといえば、そんなことはない。でも、それを目指すことが大事なんです」

絶えず心に念じ、目指していく。人には、そういうものが、必要なのです。

(取材・文/上阪徹)

植木 宣隆 サンマーク出版 代表取締役社長

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うえき のぶたか / Nobutaka Ueki

1951年、京都に生まれる。1976年、京都大学文学部独文科を卒業。株式会社潮文社を経て1978年、サンマーク出版の前身である株式会社教育研究社に入社。戦後2番目(当時)の大ヒットとなった春山茂雄著『脳内革命』(410万部)をはじめとして、久徳重盛著『母原病』や船井幸雄著『これから10年 生き方の発見』などを企画編集。編集長として、また経営者として、この25年で8冊の単行本ミリオンセラーに恵まれてきた。ライツの海外販売にも早くから取り組み、サンマーク出版の海外発行総部数は累計2500万部となっている。2002年より現職

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