「ガンダム」に安彦良和氏が描いたものとは? 「世の中のリアリティは崩せない」

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──小説は参考にしますか。

イメージを触発してくれるものとして読むことはあるが、他人がフィクションとして加工しているので、資料としては油断なりません。

──歴史物を描かれるときは現代の視点で描くのですか。あるいは当時の物の考え方を尊重しますか。

どちらともいえます。満州を舞台にした『虹色のトロツキー』を描いたときは現代の自分たちが満州体験から何を学ばなければいけないかということが気になった。つまり現代との関連を意識するということです。

現代そのものを描くのは難しい

安彦良和(やすひこ・よしかず)●1947年生まれ。弘前大学中退。アニメーターとして『宇宙戦艦ヤマト』、『勇者ライディーン』などに参加。79年、テレビアニメ『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイン、作画監督を務める一方、コミック誌に『アリオン』を発表し漫画家デビュー。代表作に『虹色のトロツキー』、『王道の狗』など。2001年から『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』を連載。神戸芸術工科大学特別教授も務める。

同時に当時の考え方も気になる。『王道の狗』は自由民権運動がテーマですが、戦後世代のわれわれは民権が正しく、国権は間違いだと教わってきた。だが当時は両者がそれほど違っていたかどうか。あまりにも現代的に解釈しすぎるのはどうかという気がしましたね。

──ご自身が体験した1960~1970年代の安保闘争のような、現代に近い作品を描かれる予定は。

描きたいと思ったことはない。歴史体験は風化するといわれますね。でもどうなんでしょう。たとえば太平洋戦争を日本人として客観的に考えることは、むしろ今のほうができるのではないか。だから安保や全共闘がどうのというのは、まだ熟成していない気がする。一方で、後の世代の人が書いた作品を僕なんかが見ると、「そんなんじゃない」ということも出てくる。難しいですね。

――『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』ですが、一回終わったアニメの物語を、もう一度新たな解釈も入れて描かれているのは、歴史漫画のアプローチと似ています。

確かに似ていますね。オリジナルのガンダムは、一つの体験として歴史化している。ただ、どんどん実態とかけ離れて、違った解釈がなされている。当時実際に作業した人間として言わせてもらうと、「そんなこと描いた覚えはないぞ」と。

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