「不倫」した人は、公に罰せられるべき? 著名人の不倫報道という「リンチ」

✎ 1〜 ✎ 29 ✎ 30 ✎ 31 ✎ 最新
拡大
縮小

民法上、不貞は相手に対する背信行為として、離婚請求ができる事由のひとつになっています。これは戦前の姦通罪とは異なり、男女ともに貞操を守るという近代家族的な性規範を共有した規定です。相手の不倫がわかれば、離婚訴訟になったときに、より多額の慰謝料を請求することができますから、いまだに私立探偵のお仕事はなくならないのでしょう。

今や、不倫の主体は男性だけではない

ただ、そうした一夫一婦制規範の確立の一方で、現代日本の性行動は、明らかに婚姻の範囲を超えています。後でデータで見るとおり、不倫はある程度、一般化しています。そして現代の不倫は、決して男性だけが主体となるものではありません。林真理子の『不機嫌な果実』(文藝春秋、1996年)の「夫以外の男とのセックスは、どうしてこんなに楽しいのだろうか」という表現が話題となったのは、もうほぼ20年前です。

女性もその一端を担う以上、不倫と性差別は別のものです。これが重なるように見えるとすれば、男性の稼ぎなしでは生きていけない、専業主婦層の保身と考えざるをえません。

そして、そうした「妻の座の保護」が、逆に夫から逃げたい妻を縛ることにもつながる点については、以前の連載で述べたとおりです(「専業主婦は、とっても危険な選択肢」参照)。近代家族とは、そうした、相手を拘束し合う性的排他性を持つものだったと言ってもいいでしょう。そして、その近代家族の性規範に対するズレが、不倫という形で表面化しているのです。

その意味で近代家族的な性規範は、すでに現代日本の実際の性行動とはかみ合わない、いわば1周前の規範です。だとすると、不倫を性差別として糾弾するという行為は、(近代家族という)1周前の性規範で、(家制度的な)2周前の性行動を批判するという形になっています。これは現代の日本社会にあっては、他人の性に対する抑圧的な介入であるとともに、何より女性の性自体を、ある型にはめてしまう危険性があるのです。

パートナー以外と関係が「なかった」人は約7割

離婚件数が17年連続して、結婚件数の3割を超えている現在、婚姻関係の過渡期の中で配偶者以外との性交渉が存在することは、もはや珍しいことではないでしょう。

NHKが1999年に行った調査で、1年以内に性関係があった人のうち、配偶者・恋人以外と関係があったと答えたのは、20代の女性で13%、30代の女性で10%、20代の男性で25%、30代の男性で15%(『データブックNHK日本人の性行動・性意識』NHK出版)。無記入の層が多いため、(パートナー以外とは)「なかった」と答えたのは7割前後です。15年以上前の調査ですから、現在はもう少し婚外性関係の比率が高いと見たほうがよいかもしれません。

次ページ「不倫で社会的制裁」は正しいのか?
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT