アサヒ、海外事業が不完全燃焼なワケ 過去最高益更新!それでも残る課題

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2月13日に行われたエノテカの買収会見。アサヒビールの小路明善社長(左) (撮影:梅谷秀司)

減収減益に沈んだキリンホールディングスとは対照的に、アサヒグループホールディングスの2014年度決算は売上高、営業利益ともに過去最高を更新した。決算発表翌日の2月13日には、ワイン販売大手・エノテカ買収を発表。ビールに加えてワインの品ぞろえを拡充し、小売店や外食店への提案力を強化したい考えだ。

順風満帆にも見えるが、グローバル化は思うように進んでいない。アサヒの14年度の国際事業は売上高2347億円に対し12億円の営業赤字。同事業の業績開示が始まった10年度以降、5期連続で赤字となっている。

売り上げは拡大しているものの、買収した子会社の収益貢献が遅れており、のれん償却も重い。14年度はニュージーランド子会社ののれんについて、200億円の減損損失を計上した。ただ今年度は、オセアニアの物流再編による効率化や償却費減少から、国際事業で黒字化を見込む。

海外展開で見劣り

これまでアサヒはサントリーやキリンと違い海外で大型買収は行っておらず、「売上高100億~200億円の細かい“点”が集合している。全社を引っ張る力はない」(モルガン・スタンレーMUFG証券の出村泰三アナリスト)。海外売上高比率はサントリー、キリンが3割台なのに対し、アサヒは1割強。国内市場の縮小が避けられない今後、さらなる海外拡大が重要なのは間違いない。

ただ、国内で圧倒的な武器となっているビールが海外で戦えないところに、アサヒの悩ましさがある。世界のビール市場は再編が進み、アンハイザー・ブッシュ・インベブやSABミラー、ハイネケンといった大手5社で、世界消費量の半分を占める寡占市場だ(13年、ユーロモニター調べ)。「ビール業界はいす取りゲーム。すでに世界展開を進めているキリンでも、今から新しいマーケットを取るのは難しい。出遅れているアサヒはもっと難しい」(出村アナリスト)とされる。

海外強化に必要な”武装”

韓国などへ「スーパードライ」をプレミアムビールとして輸出・販売しているが、全体に占めるプレミアム市場の規模は小さい。また、ビールは酒類の中でも賞味期限が比較的短く、容量に対する単価も安い。規模拡大を図るには現地生産のほうが望ましく、ビールの輸出が海外戦略の主軸となるとは考えにくい。

そうした中、世界展開で力を入れているのが清涼飲料だ。15年1月にインドネシアで現地企業との合弁による新工場が稼働。お茶やコーヒーの現地生産を開始した。ミャンマーでも現地企業との合弁で炭酸飲料の製造販売を行うなど拡大を進めている。将来的に傘下のカルピスと海外展開で統合が進めば、拡大に弾みがつく可能性もある。

もっとも、清涼飲料でも、コカ・コーラやペプシコといった海外大手が君臨する。「世界のアサヒ」となるには、提携や買収を通じた、一段の武装が必要になるだろう。

「週刊東洋経済」2015年2月28日号<23日発売>「核心リポート05」を転載)

田嶌 ななみ 東洋経済 記者

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たじま ななみ / Nanami Tajima

2013年、東洋経済入社。食品業界・電機業界の担当記者を経て、2017年10月より東洋経済オンライン編集部所属。

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