イタリア人が並んで食べる「ジェラート」の真実 おいしいジェラテリアでは「中が見えない」

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トリノで人気のジェラテリア「アルベルト・マルケッティ」の店内。ジェラートは見えず、メニューもごくシンプル(筆者撮影)

私が住むトリノに、「アルベルト・マルケッティ」と「マーレ・デイ・ボスキ」という、ダントツの人気を誇る2軒のジェラテリアがある。トリノでは、この2店を知らないなんてあり得ない、と誰もが思うほどの人気店だが、実はそれはトリノでだけの話。他の州に行ったらほとんど誰も知らないし、その土地の人気ジェラテリアがそれぞれ別にある。

トリノで必ずある「ジャンドゥイオット」フレーバー

イタリア人の友人に聞いてみると、「駅や空港のフードコートに入っていたり、どこに行っても同じ店があるのを見ると、ゲンナリしちゃう。そんなに大量に、同じ味、同じクオリティを守れるわけがないじゃない」と言う。だからかどうか、トリノで生まれた、手作りハイクオリティの流れを作った例のジェラテリアは、人気が爆発し、全イタリアに、そしてニューヨーク、パリ、東京にと次々と出店したあたりから、トリノでは人気が落ちていった。「大量生産の手作り」と皮肉られ、トリノ市内からは店舗がどんどんなくなっていった。

一時はあんなに並ばないと食べられなかったあのジェラートは、味が変わってしまい、今ではスーパーの冷蔵ケースで冷凍食品と並んで売られている。そして心配なことに、前述のトリノの人気店2軒も、実はそれぞれがミラノに1軒ずつ、進出を果たしているのだ。ジェラテリアにせよ、レストランにせよ、多店舗展開をして成功している例はイタリアでは多くない。それでも自分だけは違う、成功したらどこまでも大きくなりたいと思うのは、起業家の性なのだろうか? クオリティが落ちていかないことを祈るばかりだ。

こんな具合に、「ご当地ジェラートを愛する体質」は、イタリア人誰もが持っているように見える。イタリア人は、自分の街の人が作る、自分の街のフレーバージェラートが何より大好きなのだ。日本人にだってそういう気持ちはあるが、イタリア人はそれが特に強い。そんな彼らを保守的で閉鎖的だと思うか、イタリアらしくてサステナブルで可愛らしいと評価するかは自由だ。ただ少なくとも、大量生産ではないヘルシーなもの、味覚や健康を損なうことのない混じり気の少ないものを食べている傾向がイタリア人にはある、ということは言えるかもしれない。

チョコレート系やピスタチオのフレーバーが人気。右はピスタチオとジャンドゥイオット、 左はピスタチオとチョコチップ(筆者撮影)

ちなみにトリノのジェラテリアでは、名店だろうが迷店だろうが、どこへ行っても必ずあるのが「ジャンドゥイオット」フレーバーだ。言わずと知れたトリノ名物、ヘーゼルナッツクリームを混ぜ込んだチョコレート「ジャンドゥイオット」味のジェラートだ。そんなご当地ジェラートが各地にある。だからイタリア食べ歩きは楽しくてやめられないというわけだ。

宮本 さやか フードライター

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みやもと さやか / Sayaka Miyamoto

1996年より、イタリア・トリノ在住。イタリア人の夫と娘と暮らしつつ、ライター、コーディネーターとして日本にイタリアの食情報を発信する。一方、イタリア料理教室、日本料理教室、そしてイタリアの人々に正しい日本の食文化を知ってもらうためのフードイベントなども行っている。ブログ「ピエモンテのしあわせマダミン2」

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