マリン首相「流出ダンス動画」反応に見る時代錯誤 キレキレのダンス動画に「批判と擁護」世論2分

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踊ることだけではなく、首相がアルコールを摂取していたことも批判の対象となっています。しかし、『t-online』の記事によると、第2次世界大戦時に連合国の戦争指導にあたった当時のイギリスの首相ウインストン・チャーチルは朝食の際にウイスキーを飲み、寝る前にもアルコールを摂取したアルコール依存症でしたがナチスとの闘いという面において今日にいたるまで評価されています。

サンナ・マリン首相に関しても「戦時下であるウクライナの首都キーウを訪問しウクライナに連携を示したこと」「フィンランドをNATO加盟へと導きヨーロッパをロシアの攻撃から守るために全力を尽くしていること」といった「マリン首相の政治」に目を向けるべきではないでしょうか。

そもそもマリン氏が首相になってから税金をごまかしたという話もなければ職権乱用にまつわるスキャンダルもなく、ドイツのメディアは同氏の「クリーンさ」に言及しています

トランプ元アメリカ大統領の女性問題は許容された

筆者の知り合いのスイス人女性は今回の騒動について「社会はどこの国でも男性の政治家に甘い。たとえばイギリスのジョンソン首相には婚外関係で生まれた子供も含めて、計3人の女性と6人の子供がいる。アメリカの元大統領のドナルド・トランプも婚姻中にポルノ女優と関係を持ち暴露本まで出されているのに、サンナ・マリンが知人のリビングルームでダンスをしているだけでスキャンダルとして扱われるのは女性として本当に悔しい」と話しました。

日本でも海外でも政治の世界ではまだ男性のほうが女性よりも数が多いのが現状です。そういった中で、政治家自身も国民も「男性の遊びのしかた」に慣れてしまったため、女性であるフィンランドの首相が「若者に流行りのキレキレのダンスを踊ったこと」に違和感を持ったのだと想像します。たとえば日本では男性の政治家が銀座で「クラブ遊び」をしても、その遊び自体を叩く人はあまりいません。昔から「男性の政治家がクラブ遊びをすること」は特に珍しいことではなかったからです。

欧州の政治家についても、サンナ・マリン氏のような若い世代の政治家は稀です。だから欧州の世間もまた「政治家の趣味が落ち着いた感じのものであること」に慣れてしまっているところがあるのです。たとえばドイツの元首相であるアンゲラ・メルケルの趣味はクロスカントリー・スキーでした。しかしフィンランドの首相は若い女性なのですから「今風の若者が踊るようなダンスが好き」であることは自然だといえます。

首相といえども、「個人」によって、そして「年代によって」趣味が違うのは当たり前……そんなふうに見ることはできないのでしょうか。

マリン首相は政治家なのですから「生き方が女性として常識的か」という観点で評価されるべきではなく、「仕事人」として評価されるべきでしょう。

サンドラ・ヘフェリン コラムニスト

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Sandra Haefelin

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴20年。 日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフといじめ問題」「バイリンガル教育について」など、多文化共生をテーマに執筆活動をしている。著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから!!』(中公新書ラクレ)、『ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(ヒラマツオとの共著/メディアファクトリー)など著書多数。

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