消えた「数学C」が復活、奇妙すぎる日本の教育改革 脱「ゆとり」を提唱した数学者から見た教育行政

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朝日新聞「論壇」(1996年11月7日号)、週刊ダイヤモンド「論文」(1998年4月11日号)、『分数ができない大学生』(1999年、東洋経済新報社)などで数学の意義を活字にして訴えると同時に、全国の小中高校で数学の面白さを伝える出前授業も始めた。

円周率3.14をめぐる問題

その後、「ゆとり教育」を支持する方々から、「ゆとり教育を御批判される人たちは『円周率約3はケシカラン』とよく言われますが、教科書にはちゃんと3.14と書いてあります」、と散々言われたことを思い出す。

その都度、「確かに、3.14という記述はあります。しかし、それは意味のない3.14なのです。たとえば、半径が11cmの円の面積を求めると、11×11×3.14=121×3.14という計算が現れます。そこで、3桁同士の掛け算が出てきます。ところが「ゆとり教育」の筆算では、2桁同士の掛け算は教えるものの、3桁同士の掛け算は学習指導要領の範囲外となって、そこで『円周率は約3として計算してよい』となったのです。したがって、問題の本質は『3桁同士の掛け算』を学習指導要領範囲外にしたことです」と反論した。

それに対して数学教育の専門家と称する方が、活字にして「2桁同士の掛け算ができれば3桁同士もできるようになります」と批判されたことを懐かしく思い出す。

およそドミノ倒し現象だろうが、ボックスティッシュの紙が続いて出てくる現象だろうが、牌や紙が2つの場合だけでは次々と続く現象の理解は不十分であり、3つの場合の動きが重要である。それと同じで、繰り上がりの仕組みを理解するには、3桁同士の掛け算(筆算)の理解が重要である。以上の考えを広く訴えつつ事態の推移を見守った。

そして2006年7月に、国立教育政策研究所は「特定の課題に関する調査(算数・数学)」(小4から中3の約1万9000人対象)に関して次の報告をした。小4を対象とした調査で「21×32」の正答率が82.0%であったものの、「231×21」のそれが51.1%に急落したこと。さらに小5を対象とした「3.8×2.4」の正答率が84.0%であったものの、「2.43×5.6」のそれが55.9%に急落したこと。

それを機に筆者は文部科学省委嘱事業の「(算数)教科書の改善・充実に関する研究」専門家会議委員に任命され(2006年11月~2008年3月)、掛け算の桁数の問題、四則混合計算の問題、小数・分数の混合計算の問題などについての持論を最終答申に盛り込んでいただき、それらの問題は改善されてきた。

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