清澄白河の超個性派カフェへ行ってみよう ブルーボトルの出店で賑わうカフェの街

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ARISEの意味は「生じる」。良い出来事にも悪い出来事にも使われる。風が巻き起こるのもARISEという。「ブラジルにSEPULTURAというガラの悪いスラッシュメタルのバンドがいて、彼らのアルバムのタイトルがARISEなんです」。

なぜそんな言葉を店名に選んだのだろうか。

林さん(中央)とスタッフ

コーヒー屋には陰陽の両面がある、と林さんは語る。光と影、ポジとネガは、見方によっても反転する。「ハッピーでピースフルな面だけを強調する傾向には反発を感じる。長く続けていけば必ず辛いことにぶつかります。今は追い風が吹いているが、コーヒー屋を続けていくのは難しい。特に一人でやっている場合は、心身のどちらかが病むと大変……まあ、こんな感じで適当に付けた店名なんですが」と、照れもあるのか、最後は冗談にされてしまった。

いま、追い風と実力と人望が林さんにはある。週末ともなれば、4、5人で満席になる小さな焙煎所に、その倍以上の人々がコーヒーとおしゃべりを楽しみにやって来る。常連客は94歳から7歳まで。初対面のお客どうしが気軽に言葉を交わす光景は、町の人間交差点である。沖縄のコーヒー屋さんの店先で、地元民も旅行者も入り混じって、年齢や国籍のばらばらな人々の輪ができる光景に共感していた林さんは、アライズの前に小さなベンチを据えた。

ARiSE COFFEE ROASTERS内の焙煎機。店舗面積の4分の1ほどを占めている

そのベンチが幾つもの愉快なシーンを生んでいく。人々はコーヒーを片手にここで待ち合わせをしたり、将棋を指したり、ペットの犬や鷹を自慢したり、打楽器を演奏したりして過ごす。アライズが放射している自由であたたかな空気が人々を包み込み、自然にリラックスさせるのだろう。

2014年、林さんは近所に2店舗目となるアライズ コーヒー エンタングルをオープンした。焙煎所の3倍の広さを持つ気持ちのいいカフェである。カウンターに立つのは林さんが信頼するバリスタ、松本順さん。アライズを愛する常連客たちは、日によって2店を使い分けて楽しむようになった。

目の前にブルーボトルコーヒーがオープン

そんなさなか、アメリカからブルーボトルコーヒーが上陸した。しかもアライズ コーヒー ロースターズから歩いて75歩という至近距離だ。

2015年2月、ブルーボトルコーヒーのオープン初日には、町のあらゆるカフェが通常の何倍もの遠来の客を迎えることになった。

アライズの前には待ち行列が長く伸びて、林さんは一日中飲まず食わずでコーヒーをドリップし続けねばならず、定刻より数時間も早くお店を閉めた。以降、連日のように閉店時刻の繰り上げが続いている。彼はその緊急事態を「ブルーシフト作戦発動」と呼び、小さな笑いに転換する。今年の目標は「波にのまれないこと」。

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