寝ていたトランプ支持者を起こしたバイデン政権 11月8日の中間選挙を控えたアメリカにご用心

✎ 1〜 ✎ 130 ✎ 131 ✎ 132 ✎ 最新
拡大
縮小

ということで、8月になってから民主党は結構挽回し、11月8日の中間選挙では「下院ではやや劣勢だが、上院はかなりいい勝負」という線までこぎつけている。ところがそんな中で、危うさを感じさせる事案も起きている。8月8日に、FBI(連邦捜査局)がマー・ア・ラゴのドナルド・トランプ邸を強制捜査に踏み切ったことである。

容疑はドナルド・トランプ前大統領が、大統領時代の重要機密書類を自宅に隠し持っている、ということ。しかし歴代大統領が、自宅の強制捜査を受けたなんて話は前代未聞だ。ウォーターゲート事件のときのリチャード・ニクソン大統領でさえ、「召喚状」を受け取るのが関の山だった。

しかもトランプ氏は6月にFBIの任意捜査を受け入れて、一部の文書を返還している。ところがその後になって、マー・ア・ラゴの自宅に極秘文書が隠してあるとのタレコミがあったとかで、メリック・ガーランド司法長官はFBIの捜査令状に許可を与えたのである。

仮にトランプ氏が核兵器に関する外交機密文書を、イランとか北朝鮮に売り渡す恐れがあるというのなら、それは確かに一刻を争う事態である。とはいえ、それはちょっと考えにくいのではないか。なによりガサ入れが行われた8月8日は、中間選挙のちょうど3カ月前である。さすがにタイミングが悪すぎよう。というか、2016年のヒラリー・クリントン氏のメール問題捜査でも、FBIはこの手の「空気読めなさ」を遺憾なく発揮したのだが。

「トランプ支持者」という寝た子を起こした?

ともあれ、トランプ氏にとってこれは「おいしい状況」であった。さっそく「魔女狩りだ!」と雄叫びを上げる。するとたちまち、全米のトランプ支持者たちがこれに呼応する。「俺たちのトランプが、『影の政府』の攻撃を受けているぞ!」というわけだ。

これで一体どんな化学反応が起きるやら。選挙で勝つには、景気を良くしたり法案を通したり、ひとつひとつの積み重ねが大事なのは言うまでもないが、有権者の感情に訴えることもまことに重要だ。バイデン政権、せっかく劣勢を挽回しつつあったところで、「トランプ支持者」という寝た子を起こしてしまったのではないだろうか。

8月16日には、ワイオミング州で中間選挙に向けた予備選挙が行われた。そこでは共和党有力下院議員のリズ・チェイニー氏が、トランプ氏が放った刺客候補の弁護士のハリエット・ヘイジマンに大差で敗れるという椿事が起きている。なんと66.3%対28.9%の大差だというから、「トランプ人気」何とも畏るべし。

リズ・チェイニーは、あのディック・チェイニー副大統領(ブッシュJr.政権)の長女。お父さん同様に、共和党保守本流の流れをくむ「強いアメリカ」論者だ。過去にはトランプ弾劾裁判で有罪票を投じ、下院の「1月6日特別調査委員会」では連邦議会占拠事件におけるトランプ氏の責任を厳しく追及してきた。

ただし現在の共和党内においては、トランプ支持者の勢いのほうが圧倒的である。これが11月8日の中間選挙にどんな風に影響するのか。どうやらワシントン政治はこの夏から、一種の「確変モード」に突入しつつあるらしい。鬼が出るか蛇が出るか、とりあえず久々の「トランプ劇場」にはくれぐれもご注意願いたい(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。

次ページさて競馬。「夏のスーパーG2」札幌記念の勝ち馬は?
関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT