セドラチェクvs斎藤幸平「成長は一体、何の為?」 資本主義での競争にどこまで意義を見出せるか

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セドラチェク:そうとは言い切れません。たとえ話をします。イギリスの作家トルーキンの長編小説『ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)』にはエルフの住む国とモルドールの国が登場します。

モルドールのGDP成長率は少なくとも23%です。森林伐採や重工業化が進み、戦争の準備もしているため経済が成長しているのです。

一方、エルフのGDP成長率はゼロです。彼らは全てを先祖から受け継いで何も新しいものを作らず、交易さえせず、モノを分け合っているからです。

どっちに住みたいですか。もちろんエルフの国ですよね。ですが、エルフの国に住むためには十分文化が備わっていなければなりませんし、 〝エルフイズム〟をモルドールの人々に強制することもできないのです。

私たちの世界も、かつてはモルドールのようなものでした。日本もチェコもアメリカもです。小さな子供たちまでもが働いていた時代があったのです。そして、長い時間をかけて、私たちは徐々にエルフ化してきたのです。私はそのことに大きな価値と希望を感じています。

この道を進むことは可能だと思うのです。ゆっくりではありますし、私たちはさらに大きく変化し、新しい考え方を見つけなければなりません。しかし、共産主義の道を進むことは誰にもお勧めできません。たとえ、どのような形であっても、です。

日本人は働き過ぎている

斎藤:日本では「豊かな生活は経済成長によってのみ保障される」という考え方が強力です。私は「脱成長」という概念でこの思い込みに挑戦したいのです。

経済成長は生産と消費への継続的なプレッシャーと、それに伴う環境破壊の要因となっており、人々をより幸せにするわけではありませんからね。いわゆるイースタリン・パラドクス[アメリカの経済学者リチャード・イースタリンが1974年に発表した「幸福の逆説」。収入が基本ニーズに達すると、所得と幸福感の相関関係は薄れていくという説]です。

実際には、人々はより不幸になる可能性もあります。広告に踊らされ、競争を強いられ、低賃金で働くことを強いられるなら。

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