新幹線、次世代の営業列車を生む「試験車」の系譜 かつての「1000形」から、最新型のALFA-Xまで

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一方で実用化されなかった装備としては、可動式スノープラウカバーや空気抵抗増加装置(エアブレーキ、通称ネコ耳)、360Zの昇降式パンタグラフ遮音板といった可動ギミック類が挙げられる。これらは故障などのトラブルを未然に防ぐことが優先された。また、空気抵抗増加装置や昇降式パンタグラフ遮音板は車内に格納スペースが必要だという点も敬遠の一因となった。さらに最高速度を時速360kmから時速320kmに引き下げたことで不要となったという面もある。

試験終了後360Zは2008年12月12日付で廃車、360Sは2009年9月7日付で廃車となり、どちらも解体され現存していない。なおFASTECH360は速度記録を狙った試験を行っていないが、試験走行では時速398kmの実績がある。

マジョーラカラーが特徴だったFASTECH360S。1号車はストリームラインという16mの先頭部を持っていた。1〜3号車は日立製作所製で、500系をデザインしたアレクサンダー・ノイマイスターがデザインを監修した(筆者撮影)
FASTECH360Sの8号車はアローラインという先頭部を採用。試験の結果、こちらのほうが良好だった。4〜8号車は川崎重工業製で、デザインを監修したA&Fの福田哲夫氏は、100系からN700Sまでのデザインも担当している(筆者撮影)
FASTECH360Zの先頭部はアローライン。長さは11号車が13mで、16号車が16mとなっていた。写真は11号車で可動式スノープラウが最後まで残っていた。16号車と360Sは固定式に改修していた(筆者撮影)

ALFA-Xは新型車両にどう生かされる?

ALFA-XはFASTECH360が残した課題をクリアして時速360km運転を実現すべく部品の開発を行った。制動力については、屋根上配置により客室スペースを犠牲にしない空気抵抗増加装置を設置したほか、リニア式減速度増加装置を装備した。また、地震発生時の脱線を抑制する地震対策左右動ダンパと地震対策クラッシャブルストッパを台車に搭載している。

また、環境性能を向上させるため、先頭部の形状とパンタグラフを見直したほか、ブレーキディスクの裏面冷却フィンのリブ部をスロープ化して、騒音の低減を図った。

乗り心地面では上下制振装置を設置。車体傾斜装置は時速360kmに対応し、FASTECH360と同様の傾斜角度2度としている。

ALFA-Xの性能試験は3月に終了したばかりで、おそらく試験結果に基づいた評価や今後の方針が話し合われていると思われる。気になるのは次世代車両が時速360km運転を行うかどうかであるが、一方で東北新幹線盛岡―新青森間の最高速度を時速260kmから時速320kmに引き上げ、北海道新幹線新函館北斗―札幌間も最高時速320km運転を予定しており、仮に最高時速320kmのままとなったとしても、ALFA-Xに搭載された新開発部品のいくつかは営業車両に反映されると思われる。

16mの先頭部を持つ1号車を先頭にしたALFA-X。中間車の屋根上にはたくさんの空気抵抗増加装置(黄色い部分)が搭載されているのがわかる。新開発された技術の内どれだけ営業車両に反映されるのかが気になるところだ(筆者撮影)
松沼 猛 『鉄おも!』編集長

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まつぬま たける / Takeru Matsunuma

大阪府出身。明治大学文学部卒。株式会社三栄書房に20年間在籍し、編集者として世界各地を飛び回った。2008年12月から『鉄道のテクノロジー』編集長を務めた後、2013年5月に独立。現在は『鉄おも!』編集長のほか、『鉄道ジャーナル』『ニューモデルマガジンX』『カーグッズマガジン』、鉄道、自動車関連ムックなどに執筆。

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