ソフトバンク、米スプリント復活の綱渡り 2500億円の減損損失が意味するもの

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スプリントではあらゆる面での改善と強化を図り、競争力の向上を急ぐ

”ソフトバンク流”の戦略を先取りされたことに加え、身内にするつもりだったTモバイルを攻め立てるわけにもいかない。結果的に、スプリントはユーザーを奪われ続け、業績の改善もままならなかった。また、2013年9月にシリコンバレーに開いた日米共同開発拠点も、Tモバイルを含めた3社で開発体制を拡充する算段だったが、買収を断念したことでもくろみが外れ、日本から派遣したソフトバンクの開発人員を引き上げることが決まっている。

昨年8月に就任したクラウレCEOの下で、スプリントは徹底した低価格戦略を展開中だ。現在はAT&Tとベライゾンの2強から乗り換えれば同等のプランで料金を半額にする「Cut Your Bill in Half」を打ち出している。

昨年11月にはAT&Tとベライゾンに向けて「スプリントのファミリープランを知ったらヤギが絶叫するように驚くはず」といったCMを流していたが、今年2月には「ヤギ呼ばわりしたことを謝りたい。ヤギじゃなくて、とにかく料金が高すぎただけだ」などと、挑発的なCMで料金キャンペーンをアピールしている。

Tモバイルが契約者数で”接近”

こうしたマーケティング手法について、業界関係者から「Tモバイルの二番煎じ」との声も聞かれるが、成果は徐々に出始めている。単価が高いポストペイド契約は2014年10月~12月に3万件の純増(子会社群を含まず)となり、27万件の純減だった7~9月期から大幅に改善。そして、全体の純増契約数は89万となった。2月5日の決算で多額の減損を計上したものの、むしろ株価は上昇しており、足元では5ドル台を回復している。

とはいえ、2強の背中は遠い。2014年10月~12月でベライゾンは206万件(うちポストペイド契約は198万件)、AT&Tも190万件(同85万件)の純増を達成している。猛烈な追い上げを見せる4位のTモバイルも、212万件(同127万件)の純増を獲得した。回復したとはいえ、スプリントの純増契約数がもっとも少なく、単価の高いポストペイドの契約者獲得で競り負けている。

2月10日の決算会見で、「挑戦してみて、山の険しさ、高さを改めて認識している」「長く苦しい戦いが始まった」など、常にアグレッシブな孫社長にしては珍しく、スプリントの経営で”弱気”とも取れる心情を吐露した。Tモバイルの2014年12月末の総契約者数は5501万件と5529万件のスプリントにほぼ肩を並べている。4位転落のおそれもあるだけに、スプリント復活の道のりは綱渡りの状況が続きそうだ。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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