三菱重工が長崎造船所にメスを入れる理由 深刻な苦境にある民間船舶事業を分社化

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宮永社長は昨秋時点から強い危機感を示していた(撮影:今祥雄)

だが、受注した大型客船2隻は発注主の欧州クルーズ会社から高級仕様にするよう無理難題を押し付けられ、前・今期に約1000億円もの巨額損失を計上。資源探査船も工事難航で損失を強いられるなど逆に傷口を広げた。

「(祖業なので)船に対する愛着はあるが、今までのやり方で事業を継続するのは難しい」。宮永俊一社長は昨秋の中間決算会見で強い危機感を示し、どんな再建策を打ち出すかが注目されていた。

香焼工場は今後、商船建造の新規受注をLNG、LPG(液化石油ガス)運搬船に特化する。船体ブロック会社はそのガス運搬船用のブロック製造を担うほか、他社からの受注も進め、量産効果でコスト削減を図る。提携関係にある専業大手、今治造船や大島造船所からの受注を念頭に置いているもようだ。

特需一巡後に残る不安

ただし、今回の再建策で、事業の長期展望が開けたとは言いがたい。幸い、北米産シェールガスの輸入開始に向けたLNG運搬船の特需で、香焼工場は当面、多くの仕事を抱えているが、特需一巡後には不安も残る。他社からの船体ブロック請け負いも、採算が合うかは大いに疑問だ。

ある大手重工メーカーの造船担当役員は、「船体ブロックの製造下請けは、人件費の安い瀬戸内などの中小鉄工所が得意とする仕事。給料の高い三菱重工がやること自体に無理がある」と指摘する。

三菱重工の商船事業は、前期推計で年商1500億円前後。連結売上高に占める比率は5%を切り、もはや基幹事業とはいえない。今回の再建策でも赤字が続けば、他社からの出資受け入れや事業の売却・撤退も、俎上に載ってきそうだ。

「週刊東洋経済」2015年2月21日号<16日発売>「核心リポート06」を転載)

渡辺 清治 東洋経済 記者
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