【産業天気図・11年4月~12年3月】戦後最悪の災害を経て、日本産業界の景況感はどうなる



 戦後最悪の災害となった東日本大震災を受け、日本の産業界が今また困難に直面している。揺れや津波による工場の被災、電力制限で、自動車や電機をはじめとする幅広い業界が生産面での制約を受けている。影響は海外同業にも広がっており、世界経済の不確実性増大にもつながっている。2008年の金融危機からようやく反転し始めていた矢先に発生した未曾有の産業被災。「会社四季報」の業界担当記者は、震災以後の景況感をいかに予想しているか。

 2011年4月から1年通じて前年の利益水準を下回る業界が少なくない。たとえば電力では福島第一原子力発電所の事故を受け、業界全体で原発の安全性強化の動きが広がっており、東京電力に限らず業界各社の収益を下押しすると担当記者は懸念している。また、夏に向けての電力供給難が想定される中、化学のような装置型産業は大きな痛手を受ける。家電・AVは家電エコポイントによる活況の最中にあっただけに、生産制約と消費減退の両面に悩まされそうだ。

 さらに企業の被災は、銀行業にとっては融資先の業績悪化で与信費用が増加するネガティブ要因。損害保険業でも支払保険金が増大、技術者派遣などを手掛ける人材サービス業の景況感も下押しするなど、影響の波及は不可避な状況だ。

 ただ、金融危機後の景気回復を主導してきた輸出型産業にとって、世界の環境は決して悪くはない。自動車は部品調達が滞り、震災直後は国内の完成車工場が軒並み操業停止に追い込まれ、トヨタやホンダは当面5割程度の操業が続く公算。が、新興国を中心に世界の自動車需要は強く、11年10月以降の後半には業績拡大に反転できる期待がある。重電建設機械も同様に、海外需要による後半の景況感改善が見込める。

 内需型産業では、建設業が復興特需が一部にあっても、全国的な公共予算の執行遅れなどで厳しい景況感が予想される。だが、医薬品コンビニ・スーパー、住宅・マンションなどは後半に持ち直す、と担当記者は見通している。

上向き=前年同期に比べて営業増益が期待できる
変わらず=前年同期と営業利益水準はほぼ変わらず
下向き=前年同期に比べて営業減益が予想される


主要業種の見通し
業種 天気 天気概況
11年4~9月 11年10~12年3月
建設業 下向き 下向き 震災復興特需は公共事業の低価格入札の流れもあって限定的。むしろ震災影響で公共工事の予算執行に遅れ、大企業の設備投資のアジアシフトも逆風。資機材の調達難も広範囲に広がる懸念で、景況感は後退か。
紙パルプ 下向き 変わらず 日本製紙、三菱製紙は主力工場が被災し操業全面停止中。東京有明地域の倉庫でも荷崩れにより一部製品で需給逼迫。業績悪化の最大要因だった販売価格は下げ止まるとの見方がある一方、経済活動の停滞により需要が一段と弱含む可能性も。
化学 下向き 下向き 東日本大震災により主要企業の大型プラントが被災。前半は直接的な生産停止や電力不足の影響、国内景気の減速で痛手を受ける。後半はやや持ち直すが、好調だった前年同期を上回るのは難しい。
医薬 下向き 変わらず アステラス製薬、中外製薬など大手製薬の一部が東日本大震災で被災。前半は工場の操業停止が痛手、後半も電力供給問題が懸念要因。原薬の製造段階で電力が不安定になると品質にも影響も。
人材サービス 下向き 下向き 回復基調にあった製造請負・派遣は、震災による被災地顧客工場停止、部品・電力不足で被災地以外工場も減産。電力不足長期化も響く。上向きつつあった技術者派遣も冷や水。事務系派遣も一段落ち込み懸念。
石油 下向き 上向き 石油元売りは原油調達コスト上昇でマージンが縮小。JXとコスモは震災で一部製油所が稼動停止状態で、臨時輸送等のコスト負担も重い。一方、上流専業の国際石油油開発などは原油相場が上がれば上がるほど儲かり、大幅な増益が確実だ。
商社 上向き 上向き 震災の影響でモノの荷動きが鈍れば、総合商社のトレード業務にとってもマイナス要因。が、今や利益の大宗を稼ぐ石油・金属資源が歴史的な高値で推移し、総合商社は一段の利益拡大へ。一方、専門商社は国内の景気後退のマイナス影響が避けられない。
鉄鋼・非鉄 下向き 変わらず 高炉メーカーは建材用途で復興需要出ても、主要顧客の自動車など製造業の落ち込みが上期中心にきつく、高炉原料価格の上昇が打撃。一方、建材用途が中心の電炉業界は、原料のスクラップ価格下落もあり上向きそう。
精密 下向き 変わらず 前半は震災による部品不足の影響を受け、カメラを中心に生産調整が続く。ただ、一眼レフカメラはアジアなどでの海外需要が旺盛。後半にけて生産が回復するにつれ、企業の収益も上向いてくるだろう。
海運 下向き 変わらず 大型バラ積み船の運賃市況が1万ドル割れの足元からすると、今上期は前期比減益が必至。後半に運賃市況が持ち直しても、原発事故による貨物の減少が懸念され、今下期は前年同期比横ばいが精いっぱいか。
空運 下向き 変わらず 震災後、足元での旅客数は国内線、国際線とも2割台の落ち込みを見せている。JALは早々に4月からの国際線減便を決定。原発問題等が早期に収束するかで、旅客数減がいつまで続くかが決まりそうだ。
情報通信 変わらず 変わらず 東北地方のインフラ復旧にかかわる、設備投資増加が懸念材料。ただ、通信料収入が安定的で、大幅な落ち込みの心配はない。数年前導入された、割安な料金プラン浸透の減収影響が薄れつつあることもプラス。
銀行 下向き 下向き 震災を受け、復興関連の資金需要増加でも企業業績悪化で与信費用が増加。景気後退も懸念材料。与信費用が少なく、債券価格の上昇局面をとらえて売却益を得た前期から一転、業績は下向く1年に。
証券 下向き 変わらず 店舗など直接的被災は軽微。景気・企業業績や原発事故を巡る不透明感が強く、証券市場は当面、低調推移。証券発行も減少。投信は海外関連堅調でも、国内関連は不振。下期から復興需要期待で市場が回復。ただ企業収益への長期的不安が残り、伸びは限定的か。
食品 下向き 下向き 山崎製パン、日本ハム、JTなど大手で主力工場が被災。その他拠点も、計画停電の影響で稼働率が減少するケースも。さらに、4月からは小麦や油脂価格など軒並み上昇。価格転嫁が難しい状況で、業績悪化要因が併発している。
家電・AV 下向き 下向き 家電エコポイント政策終了でエアコンや冷蔵庫、洗濯機などの販売台数が減少。震災で消費意欲が減退するほか、サプライヤーの被災で部品供給が停滞する懸念大。スマートフォンなど需要旺盛な製品の生産にも影響。
半導体 変わらず 上向き ルネサスは自動車用マイコンの重要拠点が被災、再開は7月以降で業績の下押し濃厚。DRAMのエルピーダは前半中心に市況悪で苦戦するが、フラッシュの東芝はスマートフォン需要で堅調。装置も投資案件多く活況。
重電 下向き 上向き 前半は電力不足による稼働率低下で低調。後半は新興国向けや復興需要を中心に社会インフラ、産業機器関連が活発に。ただし、震災を受けた原発事業の減損リスクなど、企業によって利益の増減要因はまちまちな面も。
電子部品 変わらず 変わらず 村田製作所、京セラ、ロームなどは関東圏の拠点が被災、稼働停止中のラインも。ただ、いずれも関西圏や海外などでの代替生産が可能で業績の大きな腰折れはない。新興国のスマートフォン需要拡大など背景に海外市場が牽引。
自動車 下向き 上向き 震災影響による部品調達難や電力制限で、4~6月に国内生産半減など、前半は厳しい。だが新興国など世界の自動車需要は強く、震災影響の長期化がないことを前提に景況感は上向く公算。カギは生産正常化の時期。
造船・重機 上向き 上向き IHIは福島・相馬工場が被災、航空部品生産で影響。ただプラントは海外中心で採算改善。車用ターボチャージャー、建機用油圧機器も海外向け多く活況続く。造船底入れ。一部部品調達に懸念残るが、業績は堅調。
建設機械 変わらず 上向き コマツ、日立建機など主要企業拠点が被災も、4月上旬までにおおむね復旧。夏以降に被災地復興需要で国内新車販売が見込めるほか、新興国など海外需要も依然旺盛。懸念は夏場の電力供給体制と部材メーカーの復旧動向。
工作機械 上向き 変わらず 震災による直接的被害を受けたのは一部メーカーのみ。中部以西に拠点をおく大手メーカーは電力不足の影響も少なく、業績の急降下は避けられそう。ただ電装品など部材調達が途絶えれば、生産ペースが鈍る可能性も。
鉄道・バス 下向き 下向き 関東系鉄道会社中心に東日本大震災、原発事故、電力不足による減便(供給面)、景気減速・出控え・イベント自粛等に伴う客数減、駅ナカ小売り、百貨店・ホテル、不動産等の非鉄道部門の需要減少もあり収益下押し要因が強い。慎重に見て秋以降も回復力緩慢。
住宅・マンション 変わらず 上向き 春先は被災地に生産拠点を持つ建材メーカーからの調達が滞り、引き渡しのずれ込み等が発生する懸念がある。ただ、需要自体は堅調な地合いが続いており、部材供給のネックさえ解消されれば、計上戸数は回復傾向をたどる見込み。
ソフトサービス 下向き 変わらず 震災の復旧需要はあるものの、新規投資は半年以上の先延べは避けられない。加えて夏場の電力制限実施次第で自家発電の燃料調達費用や、サーバーやバックアップの東電域外移転など多大なコストが利益を圧迫する。
電力・ガス 下向き 下向き 福島第一原子力発電所の事故は当事者である東京電力にとどまらない。政府は既存の原発の安全性強化や新設計画の見直しを検討。電力業界全体の経営基盤を揺るがしかねない状況だ。火力発電も燃料高騰で採算厳しい。
コンビニ・スーパー 変わらず 上向き 店舗の被災と消費冷え込みが懸念されたが、大手チェーンの既存店は防災需要でむしろ堅調。後半には新店効果が期待され、景況感は上向きに改善へ。ただ、最終損益では資産除去債務などで減益が不可避となりそう。
アパレル 下向き 変わらず 中国生産中心の衣料は製造拠点の被災は限定的。被災地の販売拠点もユニクロやしまむらなどで早期に再開。ただ節電等による営業時間短縮で前半厳しい。秋以降は前年並み想定も、復興が遅れ粗利益高い秋冬衣料が鈍れば業績急降下も。
外食 下向き 変わらず 前半は消費者の自粛ムードが収益を圧迫する。牛丼、ハンバーガーなど手軽に食事が出来る業態は健闘するが、居酒屋やファミリーレストランなど、不要不急の業態は後半も厳しい。材料の変更コストも負担となる。
損保 下向き 下向き 個人向けの地震保険は官民一体のスキームであり個社への影響は少ない。ただ工場被災で企業向けの支払保険金がかさむ公算大。再保険でリスクヘッジはしているが、各社、数百億円レベルの支払金額か。
放送広告 変わらず 上向き リーマンショック後の落ち込みから回復途上にあったが、東日本大震災の影響で再び景気下押し懸念強まる。足元では広告出稿を自粛する大手企業も少なくない。ただ、復興需要の機運が高まれば景気底上げにつながる。早ければ下期に上向く可能性も。
化粧品・トイレタリー 下向き 変わらず トイレタリーは花王、ユニ・チャームなどの生産拠点が被災したが、他工場をフル稼働するなどしカバー。一方、化粧品は百貨店の営業時間短縮や外国人旅行客の減少により業績は低調に。原料や容器の調達にも懸念残る。
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