CO2と水素の合成燃料は脱炭素の切り札になるか 成蹊大学の里川重夫教授に聞く合成燃料の現在地

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――それが良いかは別にして、コストを度外視して、合成燃料を大規模に量産すれば、ガソリン車のまま脱炭素が可能になるのでしょうか。

現実的ではない。化石燃料を使わないでグリーン水素とCO2を徹底的に集めても通常の大型精製プラントの100分の1から1000分の1規模にしかならない。小型乗用車なら単純にEVにすればよいと考える。

3種類の合成燃料。条件によってできる油が異なる(写真・里川重夫教授提供)

――合成燃料の開発は無駄なのでしょうか。

そんなことはない。合成燃料の必要性を考えるには、まず将来のエネルギーを考えるところから始めるべきだ。脱炭素を目指す以上、化石燃料は使えない。すると主力となるのは再エネしかない。

太陽光、水力、バイオマスなど再エネ由来の電力をそのまま使うのが一番なので、EVや電車、家庭のエネルギーは再エネ電力で賄うのが基本だ。よく「EVにしても火力発電で作った電気を使えば脱炭素にならない」と言うが、それは当たり前。電力を再エネ由来にしていくことが大前提だからだ。

しかし、電力には「同時同量」の原則がある。再エネ電力は不安定なので貯めておく必要があるが、電池では限界がある。そこで余った電力で水素を作る。水素は電力に比べると貯蔵しやすい。貯蔵しておいて使いたいときに燃料電池や水素エンジンで使う。

ただし、水素もそう簡単に貯められるものではない。長期間、安全にエネルギーを備蓄するために初めて合成燃料という選択肢になる。既存の石油備蓄基地があるのでそれを使えばいい。

ルールを作り、必要性を議論すべき

電気でできるところは電気のまま使う。それでも難しいところは水素を使う。さらにバイオ燃料。電化できない、水素でもできない、バイオ燃料でも足りない領域、そこを合成燃料に変えていく。再エネ電力で合成燃料を作れば、とりあえずエネルギー全部の脱炭素ができる。

――それほど合成燃料のハードルは高い。コストが高い、と言い換えてもいいと思いますが、社会で使われるのでしょうか。

当然コストは高いが、むしろ経済の問題だ。例えば、航空業界には植物などを由来にするSAF(持続可能な航空燃料)というものがある。通常のジェット燃料の6倍か7倍の価格だが、国際的に一定の使用を義務付けることで取り合いになっている。

結局はルール作りが大事になる。カーボンプライシングも含めて、脱炭素のために国際的にどんなルール作りをするのか。その中で、合成燃料は必要なのか不要なのか、そういう議論が大事になってくる。

高価な合成燃料を使うくらいなら、やり方を変えるというアプローチもあるかもしれない。例えば、トラクターをEVにすると1時間で電池がなくなるので使い物にならない。だから、合成燃料の軽油が必要になる。だが、10倍の価格の軽油を使って農耕をするのか。それならば、再エネ電力を使った人工栽培の方が良いかもしれない。

そういったゲームチェンジがいろんなところに出てくる。そうすると、もしかすると合成燃料はいらないのかもしれない。

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