「日雇いバイト」で食いつなぐ40代教員の生活困窮 月収十数万円、生活保護を受ける非常勤講師も

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数年前、久しぶりぶりに学校へ戻って来た村井さんは、労働環境が以前とは比べ物にならないくらい劣悪になっていたことに驚いたという。

「多忙さには拍車がかかり、細切れの勤務で収入は減り、人間関係もぎすぎすしたものになりました。教師という仕事への愛着はありますが、このまま続けていくのは経済的にも精神的にも厳しいものがあります。今は、もう一度民間で働くことも考えています」

非常勤講師を取り巻く状況は、ここ10年くらいの間で大きく変わった。村井さんが働く自治体ではかつて、非常勤講師は固定給で月額20万円近くあった。そのため、たとえ行事等で授業が消えても、それで収入が減ることはなかった。これが時間給に変わったことで、多くの非常勤講師の生活は困窮を極めることとなった。

非常勤講師の収入が減っている

非常勤講師一人当たりの持ち時間も減少傾向にある。「ゆとりある教育を求め全国の教育条件を調べる会」(調べる会)の調査によると、2010年は2万263人だった小中学校の非常勤講師の実数が、2020年には2万8324人と、約1.4倍に増加している。

ところがその間、非常勤講師が受け持つ授業の総数は、ほとんど変わっていない。これはすなわち、非常勤講師一人当たりが担当できる授業数が減り、収入が減っていることを意味する。調べる会の調査によると、以前は常勤一人あたりの業務を3人程度で分割していたのが、現在は4人程度で分割するようになったという。

「調べる会」のデータは小中学校が対象だが、高校でも同様の状況が起きている可能性は高い。背景には2001年の義務標準法の改正、2004年の総額裁量制の導入などにより、各自治体が非常勤講師の雇用と柔軟な配置をしやすくなったことが影響している。

「今の状況では、普通にアルバイトをしたほうが生活は安定します。でも、非常勤とはいえ、生徒との交流を通じて得られる喜びや充実感を得られる瞬間はあります。だから、離れたくないという気持ちもあって悩んでいます」(村井さん)

厳しくても「充実感を得られる瞬間があるからやめられない」との話は、正規・非正規を問わず、多くの教員たちから聞く。仕事の充実感を引き換えに、理不尽な待遇で雇用し続ける「やりがい搾取」によって、現在の公立学校は維持されている。

【東洋経済では教員の働き方に関するアンケートを実施しています】

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(第8回「再雇用教員が4カ月で『雇い止め』された理不尽」は8月2日配信)

佐藤明彦 教育ジャーナリスト

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さとうあきひこ

1972年滋賀県生まれ。東北大学教育学部卒。大手出版社勤務を経てフリー記者に。編集プロダクション・株式会社コンテクスト代表取締役。『月刊 教員養成セミナー』(時事通信社)前編集長。教育書の企画・編集に携わりながら、教育分野の専門誌などに記事を寄稿。著書に『職業としての教師』『教育委員会が本気出したらスゴかった。 』『非正規教員の研究 「使い捨てられる教師たち」の知られざる実態』(ともに時事通信社)など

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