日本が大量輸入する「木質ペレット」に重大な懸念 生産地のアメリカ南部で増える健康被害の声

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住民から苦情が出ているのはエンビバに対してだけではない。2014年に操業開始したミシシッピ州エイメット郡にあるドラックスのペレット工場の周りにも健康被害の訴えが相次いでいる。

2022年5月、筆者はエイメット郡を訪ねた。道路沿いのレストランで外の席に座りながら、住民から健康被害の話を聞いた。そこでは、 約5分に1度、伐採された丸太を運んでいるトラックが道路に大きな音をたてながら走っていく。約3キロ先にあるペレット工場に向かっているのだ。

ペレット工場へ向かうトラック(写真:ロジャー・スミス/マイティー・アース)

「息ができなかったり、鼻血が出たりする」

カルメラ・コーシーレン氏は、呼吸困難の症状が以前からある程度あったが、2020年7月にペレット工場の近くに引っ越してきてから症状が悪化したと言う。夜中にいきなり起きて、息ができなかったり、鼻血が出たりする。「寝るときに、眠りながら死んでしまうのではと思うと怖い」。

同氏の知り合いや親戚の中にも呼吸困難を経験している人はいる。そのうちの1人は、工場から1キロ圏内で暮らしているシーラ・ドッビンス氏だ。彼女はスピーカーで流れる作業員への指示が聞こえるほど近くで生活している。

ドッビンス氏は夫と一緒に外のテラスで間を過ごすのが好きだった。しかし、「大気に喉を切られている」ように2016年ごろに感じ始めると、次第に体調が悪化し、2017年のある日、命の危険に陥るほど酸素を体内に取り入れられなくなった。今は24時間酸素チューブにつながれている状況だ。夫も呼吸困難を経験して、2018年に亡くなったという。

「呼吸困難があまりにも深刻で、店での買い物や請求書の支払いができなくて友達にお願いしている。息子が今度結婚式を行う予定だが、出席者の香水の香りで呼吸困難が悪化するので行けない」と、ドッビンス氏。「従姉妹が子どもたちと一緒に工場のすぐ近くに住んでいる。従姉妹らは鼻血、気管支炎を経験していて、子どもたちは週1回クリニックでアレルギー用の注射を受けている」。

前述の通り、ドラックスは目下、カナダの工場から日本企業へ木質ペレットを提供しているが、今後さらなる供給拡大や技術提供を視野に、今月東京事務所を開設。イギリス大使公邸で政府関係者、大手商社、エネルギー事業者など約160人が出席してレセプションが開催された。

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