金融緩和で溢(あふ)れるマネー 再び世界を不安定化

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 それでは、今回の資源価格や食料品価格の高騰が日米をもインフレの渦に巻き込むかといえば、市場関係者は否定する。モルガン・スタンレーMUFG証券の大橋英敏・債券調査本部長は、「原油価格高からインフレ懸念が強まる場合でも、少し長い目で見たときに、そういう悪い形での物価上昇ならば、今後、景気は悪くなるだろう、そうなればインフレはそんなに進まないだろう、結果的に金利は下がるだろう、という見立てになる」という。

米国と日本の中央銀行は資金をあふれさせているからだ。そしてこの金融緩和姿勢は続けざるをえない。

バーナンキFRB(米連邦準備制度理事会)議長は3月1日の議会証言で、「商品価格の持続的な上昇」を「引き続き注意深く監視する」としつつも、「商品価格の最近の上昇は、消費者物価に一時的で比較的穏やかな上昇をもたらす程度」としている。QE2(量的緩和第2弾)は株価押し上げには成功したものの、地方景気は厳しく、バランスシート調整に時間がかかる。QE2を期限の6月で終了しても国債の保有量は維持され、引き締めへの姿勢転換は当分ないだろう。

日本銀行も昨年10月に、「包括緩和」と銘打ってリスク資産の購入にまで踏み切っている。デフレ期待が固定化してしまった感があり、さらに今年8月には、基準改定により消費者物価指数は0・5ポイント程度押し下げられる見通しだ。

一方、ユーロ圏の消費者物価指数は2月に2・4%と3カ月連続でECB(欧州中央銀行)がターゲットにしている2%を上回っている。

ニッセイ基礎研究所の伊藤さゆり主任研究員は、「今のところ、EU(欧州連合)・ECBの政策対応で落ち着いてはいるが、ギリシャの緊縮の度合いは尋常ではなく、アイルランドも金融セクターの損失を処理しなければならない。ポルトガルも、借金の返済をしながら外貨を稼ぐことは難しい。いずれ債務再編に動かざるをえないと見ている。食料・エネルギー価格の高騰が続けば、さらに事態は厳しくなる」とする。インフレぎみでも景気への影響を考えると利上げは困難だ。利上げの一方で、資金供給は潤沢に行うというのが選択肢になるのだろうか。

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