世界ではコロナ「以外」の感染症が流行の兆し オーストラリアではインフル、英国ではサル痘

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オーストラリア保健省では「社会生活に支障を来す兆候は現時点では見られない」としている。ただしこれはワクチンの無償接種が奏功したからとも考えられる。もしもそれをしなければ、5カ月後に冬を迎える北半球では大流行が見られないとも限らない。

イギリスではさまざまな感染症

英国ではこの半年ほどの間にひどい風邪、インフルエンザ(4月に急増したが今は落ち着いた)、ノロウイルス、鳥インフル、ラッサ熱、子どもの肝炎、復活したポリオ(小児まひ)、サル痘などにかかる人が増えている。RSウイルス感染症(気管支炎のような病気)にかかる乳児もいる。

今話題のサル痘に関してWHOでは6月25日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」にはあたらないと発表。だが新型コロナウイルスに関してもWHOは当初「パンデミックではない」と発表していたのは記憶に新しいところ。緊急事態にあたらないのは「少なくとも現時点では」と考えておくべきだろう。英国政府も、例年1月頃に到来するインフルエンザの流行が早ければ9月に始まるかもしれない、という科学者の警告を重くみている。

さまざまな感染症にかかる人が増えた原因に関してはいろいろな説が出ている。コロナ感染防止対策が長く続いたために人々の自然免疫力が著しく低下している、という見方は医師や科学者から最も支持されている。

とくにコロナ禍前後に生まれた乳幼児には、保育園や公園などの長期閉鎖によってほかの子どもと触れ合って遊んだり泥まみれになったりする機会がなかった。したがって通常ならその年齢に応じて発達しているはずの免疫力を獲得できていない。また、複数回接種されたコロナワクチンが、免疫のメカニズムに関与するT細胞の反応力を疲弊させる可能性も疑われている。

厄介なのは、感染防止策を強化すればするほど、体に自然に備わっている菌類やウイルスへの抵抗力が甘やかされて低下し感染しやすくなるというパラドックスだ。対策は各自が免疫力を強化することしかない、と主張する医師も多いが、感染リスクと防止のバランスを考えると実行はなかなかむずかしい。

東京などでもこの6月に、夏だというのにインフルエンザによる学級閉鎖があった。コロナの感染対策は必要なことであったとはいえ、その反動でさまざまな感染症の危険も高まっているのかもしれない。たとえ今後「アフターコロナ」になったとしても、ほかの感染症への注意を怠らないようにすべだ。

ウイルスや細菌はたとえ見えなくても、そこにあるのだから。

(海外書き人クラブ・柳沢有紀夫<オーストラリア>、八座マモル<イギリス>)

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