観光客誘致は「名物アピール」だけではダメ 小霜和也、本田哲也が語る広告の今(下)

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小霜:自治体が行っている面白い取り組みでいうと、自治体用のアプリを専門で開発している団体がアメリカにあります。ボストンで雪が積もると消火栓が雪に埋まってしまうという課題に対して、市民が消火栓を雪かきして見つけ出せば、その消火栓に名前をつけることができるというアプリなど。

本田:面白いですね。

小霜:ここで何が言いたいかというと、かつて日本も、「道を創る」というプロジェクトがあったとき、住人らが自ら参加していたということです。ところが国がリッチになるにつれ、国が公共事業として全て担いましょうという仕組みに変化しましたね。

今はまた財政難の時代に陥っているので「住民にできることは自分でやってよ」ということですよね。これも地方自治体と住民の新しい関係です。そしてこの幸せな関係をどう表明していくのがクリエイティブなのかな、と。

名物だけをアピールしても限界がある

本田哲也 (ほんだ てつや)●1970年生まれ。セガの海外事業部を経て、1999年フライシュマン・ヒラード日本法人に入社。2006年、グループ内起業でブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。2009年に『新版 戦略PR』(アスキー新書)を上梓し、広告業界にPRブームを巻き起こす。近著に『最新 戦略PR 実践編』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)がある。

本田:聞いていて今日のキーワードはやはり関係性なんだと思いました。広告もPRも、根底にあるのは新しい関係をどう創っていくのか。それをどうわかりやすく、話題性を持ってキャッチーに伝えていくのか。

自治体ということでは、2020年に向けての海外からの観光客誘致も課題の一つです。日本人はデスティネーションキャンペーンが特技なので、「名物やお城があるので、ぜひ遊びに来てください」といったアピールをしがちですが、それだけでは限界があります。あくまで対等な関係で、来ていただいた方がどんな経験ができて何を持ち帰っていただくのか。名物アピールもいいけれどそこをしっかり訴求しないといけません。

小霜:ちなみにいま、外国人の「日本で行ってみたいランキング」の1位は富士山、2位は東京、3位が北海道らしいですよ。

本田:京都より北海道が上ですか。それは意外ですね。

小霜:どうやらアジアで北海道が一つのブランドになっていて、「北海道」と書いてある商品が売れる傾向にあるようです。富裕層が増え、自然派のグルメを堪能したいという心とつながっているのかもしれません。

本田:なるほど。世間の関心には、根底となるものや背景が必ずあります。それが何なのかを掴んでいくことが、広告・PRを成功へと導く鍵と言えそうです。

両角 晴香 フリーライター

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もろずみ はるか / Haruka Morozumi

福岡県生まれ。広告制作会社を経て2010年にフリーライターに転身。中学1年生の時にIgA腎症を発症。18年3月、夫の腎臓を移植する手術を受けた。現在、夕刊フジなどで執筆。

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