KDDIで大規模障害、生きなかった「ドコモの教訓」 過去最大級の通信障害が発生した背景とは

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また、被害を受けた法人顧客からの視線も厳しい。KDDIと社用携帯を法人契約する都内の食品卸企業からは「現時点で他社への乗り換えは考えていないが、今後の対策次第だ」との声が聞かれる。今回の通信障害を重くみた顧客が、ほかのキャリアに乗り換える可能性も出てくる。

IoTで広がる障害

ここ数年、KDDIに限らず大手キャリアでは通信障害が相次いでいる。ドコモは2021年10月に約1290万人、ソフトバンクは2018年12月に約3060万人に影響を与える大規模な通信障害を起こした。総務省によると、2020年度の重大な事故の件数は4件。ここ数年は3~5件で推移しているものの、事故1件当たりの影響を受ける個人や法人の数が大きくなっている傾向がみられる。

通信業界に詳しいMM総研の横田英明研究部長は「(次世代通信規格の)5Gの社会実装が進んだり、次の6Gが出てきたりすると、接続するシステムが増える分だけ、通信障害が起きやすくなる」と指摘する。

その代表例がIoT。技術の進展により携帯電話と連係するサービスが増えるためだ。実際、昨秋のドコモの事故はIoT端末を起点に発生しており、音声通話・データ通信の領域にまで障害が広がった。総務省はドコモの件を重くみて、2021年11月には行政指導を行った。そして、当事者のドコモのみならず、KDDIやソフトバンクなどキャリア各社に対して、緊急点検を実施した。

当時、総務省は「緊急点検の結果、各社ともドコモが講ずる再発防止策と同等の措置が講じられている、または本件を踏まえた再発防止策を検討中であることを確認した(一部省略)」とリリースで発表している。

今回のKDDIの通信障害について、総務省電気通信技術システム課の担当者は「詳細な原因究明はこれからだが、事前準備などの点で、ドコモ事故と同じような失敗を犯している。KDDIの体制整備は不十分だった」と述べた。

KDDIの吉村和幸専務は4日の会見で「ドコモの経験を生かして対策に取り組んできたが、当初の想定よりも規模が大きく、範囲が広かった」と悔やんだ。

MM総研の横田氏は「緊急時にキャリア間で通信網を支え合う体制づくりが急務だ」と話す。デジタル化の進展で通信インフラの社会的重要性が高まる中、通信網を維持する仕組みづくりを再考する必要がある。

高野 馨太 東洋経済 記者

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たかの けいた / Keita Takano

東京都羽村市生まれ。早稲田大学法学部卒。在学中に中国・上海の復旦大学に留学。日本経済新聞社を経て2021年に東洋経済新報社入社。担当業界は通信、ITなど。中国、農業、食品分野に関心。趣味は魚釣りと飲み歩き。

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