なぜ、あの人は「やる気」が続かないのか 最新脳科学が解き明かす、そのメカニズム

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この時、脳にはどんな反応が出ていたのだろうか。強い磁気を使って脳の内部を画像化する装置MRIの中で、同様のチャレンジを行ったところ、「やる気」の違いが映し出された。2つのグループを比べてみると、報酬ありのグループの方が、脳の前方のより広い範囲で活動が活発になっていたのだ。

特に活発だったのは、「やる気」の重要な鍵を握る「線条体」(せんじょうたい)。右脳と左脳のそれぞれ奥深くに、渦を巻くようにある線条体は、依存や快楽と関係ある部位だと考えられている。

玉川大学の松元健二教授は、この線条体で報酬を予測することがやる気につながると考えている。特定の行動や課題にどれくらい価値があるか判断しているのが、おそらく線条体ではないかというのだ。

やる気を持続させるには

一方、報酬をエサにして生まれた「やる気」にも、問題があることもわかってきた。続けてもういちど同じ実験を行う際、今度は両グループとも報酬なしという条件に変えてみた。

すると、もともと報酬がなかったグループは脳の活動がほとんど変わらないのに、報酬が「あり」から「なし」に替えたグループの人の脳は、まったく反応がなくなってしまった。つまり、やる気がすっかり消えてしまったのだ。

報酬を期待して高まったやる気は、報酬がなくなると消えるだけでなく、もともとあった小さなやる気さえ奪ってしまう。これを、「土台を削り取る」という意味の「アンダーマイニング」効果と呼ぶ。

TBSテレビ『生命38億年スペシャル 最新脳科学ミステリー“人間とは何だ…!?”』は2月11日(水)夜7時から4時間スペシャルで放送(写真:Graphs / Imasia)

たとえば、子供に「テストで100点とったらゲームを買ってあげる」と約束して頑張らせても、次のテストで何のご褒美も出さないと、もともとあった小さなやる気まで消え、前よりも勉強しなくなってしまうという。報酬を与えて生まれたやる気は強く人を動かす一方で、報酬を与え続けないと維持するのが難しくなる。

報酬で一時的に大きなやる気を引き出すよりも、小さくても自発的なほうが、やる気は持続するのだ。

「やる気」を出させるよい方法は、当たり前のようだが褒めること。これは脳科学的にも、効果があることがわかってきた。

褒められた時の脳の反応と、お金をもらえる時の脳の反応、2つの画像を重ね合わせてみると、同じ部分が反応しているのがわかった。東京大学の渡邊克己准教授は、褒められることを脳が報酬として捉えていることを指摘する。

「物理的な報酬である食べ物や飲み物、おカネのようなもの以外にも、たとえば人から褒められるような社会的報酬みたいなものが、実際には報酬として同じように働いています」

また、褒める時でもやる気を持続させるポイントがあると、玉川大学の松元教授は言う。

「その課題を『自分が選んでやっている』『自分の意思で決めてやっている』。そういう感覚が必要なのです」

人にやれと言われるより、自分で「面白いからやってみる」と思わせた時、本当のやる気が起こるのかもしれない。大切なのは、仕事なら結果ではなく仕事そのものに価値を見出したり、勉強でも点数よりも学ぶことに楽しみを見つけたりすること。そうすれば、やる気を安定して長く持続できる可能性が高いのだ。

TBSテレビ『最新脳科学ミステリー“人間とは何だ・・・!?”』取材班

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TBSテレビ『生命38億年スペシャル“人間とは何だ・・・!?”』は、1997年にスタートした特別番組。遺伝子、脳科学など生命科学への好奇心を喚起してきている。

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