倒産した社長が粉飾決算を真実と信じ込む不思議 最も避けたい「最悪の結末」の最短ルートなのに

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「いじった決算書は元に戻したい」と常に思っていたので、業績が良ければ正しい数字に修正したり、粉飾の程度を減らしたりする努力はしたつもりです。
2つ目の粉飾は金融機関にとがめられたら、「確かに私はいけないことをしました」と認めるしかない内容でした。不運にも、それまでの経費の組み替えでは対応できないレベルの為替変動がまたしても当社を直撃。粉飾決算の典型的手口である在庫操作に手を染めざるを得なくなったのです。
それまで在庫操作に手を出さなかったのは、やはり心の中に「経営者としてまっとうな経営をしたい」という意地があったからです。私の勝手な言い分ですが、経費の組み替えレベルであれば、罪悪感を抱かずに済みます。
ところが在庫を操作してすぐに、「これは後で修正しようと思っても、骨が相当折れるぞ」と感じました。経費の組み替えは、経費に対する解釈次第で何とかなる部分が大きい。実際に私がやったように、元に戻せないわけでもありません。
けれども在庫操作は、そう簡単ではない。業績がどんなに好調でも、1回やり過ぎてしまうと、なかったことにはまずできないと思います。具体的に言えば、実際の売上高の10%相当も在庫をいじったらアウトでしょう。粉飾せざるを得ないような立場に置かれた会社が、それを帳消しにできるだけの利益を簡単に上げられるはずがありませんから。

粉飾は「やめたほうがいいとはいわないけれど」

何としてでも会社を維持させたいと願う経営者がいたら、「粉飾はやめたほうがいい」とは言えません。ただ、知っておいてほしいことがあります。
それは心の問題です。在庫を操作するようになってから頭にこびりついて離れなかったのは、「社会的に悪いことをしてしまった」という、どんよりとした感情です。 皆さんが同じ立場になったとき、どう思われるかは分かりません。けれども私はとにかく嫌だった。
在庫操作は紛れもない粉飾です。もっと言えば、人をだます詐欺です。そうした犯罪行為を自分がこの手でやってしまったわけです……。
こうした罪悪感を引きずっていましたから、在庫操作は金融機関から融資をぎりぎり引き出せる最小限にとどめました。売上高の10%相当をいじるとまずいと先ほど話しましたが、私の場合はせいぜい3、4%。自分なりに節度を持った粉飾に抑えることによって、心の中で折り合いを無理にでもつけようとしたのです。別の事情で会社を畳みましたが、粉飾そのものはやろうと思えば続けられたと思っています。
今、振り返って感じるのは、粉飾したことは実は経営者としてそう大した問題ではなかったということです。会社を存続させるためには、やむを得なかった。そう思うだけです。
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