「魚が寿司になるまで」を真剣に解く職人の正体 「命を食べている事をたまに思い出して欲しい」

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そんな生活を続ける中、当時、9歳だった弟が、毎晩吐くようになった。

「見ていて本当にかわいそうで、かわいそうで……。何かおそろしい病気なのかもしれないと本気で心配していたんですが、徐々に食生活が原因なんじゃないか?と気づいたんです」

9歳と言えば成長期だ。18歳の岡田さんの身体では、なんともない食生活でも、小さな子どもには負担のある食生活だったのかもしれない。

「食の道へ進みなさい」

亡くなった母が、命をかけて伝えてくれたメッセージのようにも感じた。それが一番のきっかけとなり、岡田さんは家族のためにも自分が料理を作れる人になろうと決めた。ご飯一つ作れず、特にやりたいこともないのに何のために大学に行くのだろう……、そんなことも頭によぎり、将来について考え直すタイミングと重なった。

家族に食べさせるなら和食がいい。中でも自分も食べるのが好きな寿司の修行に入ることにした。高校生の時から愛読する漫画『将太の寿司』の影響もあった。

一人前の定義を、自分で決める

修行は厳しかった。何カ月も魚を触らせてもらえない、早朝から深夜までの労働は当たり前、厳しい上下関係。

「マンガなどによく描かれている世界とまったく同じでした。くじけそうになったことはありましたが、そんな暇はありませんでした。自分にはもうこれしかなかった」(岡田さん)。

もともと、学ぶことが好きな岡田さんは、母からのメッセージを果たすべく、魚や寿司の勉強にのめり込んだ。先輩たちの技術を間近で見られ、しかも給料がもらえる。労働時間は長かったが苦にはならず夢中で学んだ。

(撮影:今井康一)

しかし修行を続けていく中で大きな壁にぶち当たる。「職人としての一人前とはどういう状態なのか」。先輩たちに「先輩は一人前ですか?」と尋ねて回ると、「当たり前だ!」と言われ、「僕は?」と尋ねると「お前はまだまだだよ」と怒られたり、納得いく答えは得られなかった。悩んだ末、ならば一人前の定義は自分で決めようと岡田さんは思った。

食材を自分で調達でき、調理できる。そして、お客さんを自分の力で呼ぶことができ、お寿司を食べた方が「美味しかった」と、お金を払う価値を感じてくれる。そのすべてができたら一人前と決めた。

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