北越メタル、「35%の大株主」とバトル勃発の裏側 取締役案で真っ向対立、6月21日株主総会の行方

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ただ、株主だから何を要望してもいいというわけではない。

上場会社である以上、株主が一人ということはありえないからだ。CGCでは基本原則4の考え方で、「支配株主は、会社及び株主共同の利益を尊重し、少数株主を不公正に取り扱ってはならないのであって、支配株主を有する上場会社には、少数株主の利益を保護するためのガバナンス体制の整備が求められる」と解説を加えている。

支配株主とは一般的に議決権の50%超を保有する株主を指す。支配株主の要請は普通決議なら確実に通るだけに、少数株主の利益に対する配慮を求めるのがガバナンスの基本である。

もちろん50%未満の株主なら少数(他の)株主の利益を無視していいというわけではない。まして35%を保有するトピー工業は北越メタルの「実質的な支配株主」であるため、高いガバナンス意識が求められるはずだ。

田中教授は、「上場子会社等のあるべきガバナンス体制の在り方について、トピー工業が全く無知ないし無関心であることを示すものである」「会社法の基本的ルールを無視するものである」とトピー工業を厳しく指弾する。

返す刀で北越メタルの法人株主の取締役に対しても、「本件株主提案に賛成した場合、(中略)少なくとも、行為基準としての善管注意義務を尽くしていないと判断されるべきである」と指摘する。

田中教授の考え方は決して特別ではない。議決権行使助言会社ISS(Institutional Shareholder Services)も、取締役について会社提案に「賛成」、株主提案について「反対」を表明している。

過半数をめぐる攻防

それでも戦況は北越メタルにとって厳しい。2021年の株主総会での議決権行使率は約83%。行使率が変わらなければ、トピー工業の票だけで有効票の41%となるからだ。

そのうえで勝敗のカギは伊藤忠商事が握る。100%子会社の伊藤忠メタルズ、50%出資の伊藤忠丸紅鉄鋼が株主提案に賛成すればトピー工業分と合わせて昨年の有効票分の50%を越える。伊藤忠系の2社が棄権した場合でも、有効票が減少するためトピー工業だけで49%となるからだ。

トピー工業は、社外取締役の小倉克彦氏(伊藤忠商事金属資源部門長補佐兼伊藤忠メタルズ取締役)について選任(再任)に賛成している。伊藤忠としては北越メタル、トピー工業ともに営業上の付き合いがあるため対応は悩ましい。伊藤忠メタルズ、伊藤忠丸紅鉄鋼、伊藤忠商事はともに「ノーコメント」と態度は明らかにしていない。

出資比率が大きいため、総会後の臨時報告書から伊藤忠系の投票行動が推察できる。コーポレートガバナンスへの見識が試されることになる。

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