「日本で一番火星に近い男」、宇宙への道程 NASA基準をクリアする日本人(下)

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南極で遠征隊のリーダーを務めたことは、最終選考でも大いに役立った。(撮影:今井康一)

チームの6人が最終選考に通って北極基地での1年間の閉鎖生活に進むために必死になっているなかで、村上はひとり“火星生活”を満喫しているように見えるかもしれないが、それは違う。南極で遠征隊のリーダーを務めていた時の言葉を思い出して欲しい。

「自分は遠征を楽しめないんですけど、リーダーが楽しんでいるふりをしないとメンバーも楽しめない」

村上は遠征隊の時と同じように、人知れずメンバーの関係性も含めて方々に気を配り、いかに限られた時間を充実させ、無事に終えるかに注力していたのだ。

「国籍は関係なく、メンバーを見ているとこういう人、南極にもいたなっていう共通点があったから、その人たちが陥りそうなこと、その人の役に立ちそうなことをイメージできたんです。南極でいい見本もたくさん見てきたから、自分がどう振る舞ったらいいのか、参考にすることもできました」

南極という極限の現場で先輩たちにたたき込まれた「チームマネジメント」は、多国籍のチームでも応用できた。このことは村上にとって大きな自信になった。

ただひとり、批判的なことを言われなかった

村上の発案で習字を体験。筆を握るのはアメリカ陸軍に所属するハイジさん(25)。(提供:村上祐資)

迎えた最終日、チーム全員が集まり、会合が開かれた。「改めて全員のことを評価しあおう。ひとりひとりに、いいことも悪いこともしっかり伝えよう」という反省会だった。日本人同士なら、誰も傷つけないようになあなあで終わりがちだが、外国人でなおかつ能力の高い人たちは、ハッキリと自分の意見を口にする。

この時も、それぞれが各メンバーに対して自分が感じたことを、きたんなく伝えあったそうだ。当然、ネガティブな言葉も飛び交ったが、村上の評価だけは違った。ひとりだけ、誰からも批判的なことを言われなかった。 

「いつもやるべきことをポジティブに、楽しそうにより良くやろうとしているのがすごく伝わってきた。毎回、見れば見るほどいろいろな発見があるようなことをしていた。フォトグラファーの役割にしても、ただ写真を撮るのではなくて、そこから伝わってくるものがあった。やることがクリエイティブで、君は粋なやつだ」という絶賛が村上の総評だった。

一流の才能が集うチームのなかで自分の仕事が認められたことは村上にとって誇らしいことだったが、最後に全員が口を揃えって言った言葉を聞いて胸が熱くなったという。

「村上、次のステップに進むのは君だと思う」。

最終選考の結果は、近々発表される。ほかの2チームも合わせた21人のなかから選び抜かれた6人が、今度は北極圏のデヴォン島に建てられた模擬火星基地で1年間を過ごすことになる。

村上は文句なしの有力候補だが、実はもうひとつ、村上が結果を待っている選考がある。NASAが支援し、ハワイで行われる火星生活の模擬実験「HI-SEAS(Hawaii Space Exploration Analog and Simulation)」で、8月からスタートする1年間の隔離生活を送るメンバーの最終選考に残っているのだ。こちらの結果は4月か5月に発表される。

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