長生きする地域の人が「食べないモノ」の共通点 ブルーゾーンの人は何を食べ何を食べないのか

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紫イモやタロイモは、通常の炭水化物ではない。レジスタントスターチと呼ばれるデンプンの一種で、腸内での働きがほかの炭水化物(トウモロコシ、米、小麦、果物など)とは異なる。

レジスタントスターチは、摂取するとすぐにブドウ糖(エネルギーとして燃焼されるか、脂肪として蓄積される)に分解されるわけではなく、ほとんどそのままの状態で小腸を通過する。これに含まれる糖分子はしっかり結合しているのでヒトの酵素では分解できず、だからレジスタント(抵抗力)の名がつけられた。

そのため、レジスタントスターチを大量に食べても、血糖値やインスリン値が上がることはない。これは2型糖尿病や肥満、加齢に伴う炎症を避けるために大事なことだ。また、レジスタントスターチは血糖値を急上昇させないため、通常のデンプンよりも満腹感が長くつづく。

だが、腸内細菌がレジスタントスターチを好むというのが、何より優れた点だろう。レジスタントスターチを摂取すると腸内細菌が増殖し、短鎖脂肪酸である酢酸、プロピオン酸、酪酸を大量に産生する。短鎖脂肪酸はミトコンドリアや腸壁を覆う腸細胞の理想的な燃料となる。

このようにレジスタントスターチは腸内細菌の数を増やし、消化と栄養の吸収を促し、腸内を覆う重要な粘液層を育む腸内細菌を成長させる。

何を食べるかではなく、何を食べないか

キタバ島と沖縄の人々が、通常の加齢に伴う多くの病気と無縁でいられるのは、酪酸の増加のおかげで腸内環境が悪化せずにすんでいるからでは? これに関しては決定的な証拠があるわけではないが、ほかのブルーゾーンの人々がオリーブオイルやスベリヒユ、ローズマリーなど、腸内環境を整える食品を摂取していることを考えると、筋が通っていると思う。

だが、先に述べたように、私は長寿者の真の秘密は、何を食べるかではなく、何を食べないかにあると考えている。彼らが食べないものとは、大量の動物性タンパク質だ。ブルーゾーンの住民の中には、動物性タンパク質を大量に摂取している人がほとんどいない。それが彼らの健康長寿の秘訣だと私は信じている。

8週間のランダム化比較試験では、被験者は30%のカロリー制限食(つまり、普段より30%カロリーを抑えた食事)を摂るという前提で、2つのグループに分けられた。

一方のグループはカロリーの30%を動物性タンパク質で摂取し、もう一方のグループはカロリーの15%だけを動物性タンパク質で摂取した。両グループとも、ほぼ同じ量(6.8kg)の体重減少が見られた。

ところが血液検査では、両グループに顕著な違いが見られた。動物性タンパク質の摂取量が少なかった後者のグループは、動物性タンパク質の摂取量が多かった前者のグループに比べて、炎症マーカーの数値が低かったのだ。また、タンパク質の総摂取量(植物性および動物性)と動物性タンパク質(魚のタンパク質を除く)の摂取量の両方が、炎症の増加と相関していた。

この知識をもとに、ブルーゾーンのリストをもう一度見直してみよう。サルデーニャ人は、日曜日や特別な日にだけ肉を食べる。沖縄の人々は、少量の豚肉を含む植物中心の食事をしていた。ロマリンダのセブンスデー・アドベンチスト教会の信徒は、ほとんどがベジタリアンで、ヴィーガンも多い。

ニコヤ島の人々は週に一度しか肉を食べない。イカリア島では、一家族が1年に1頭だけ動物を殺し、その肉を数カ月かけて少しずつ食べている。また、キタバ島やアッチャロリの人々は、タンパク質の摂取量がとても少なく、そのほとんどが魚である。

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